• 2017.07.27
  • 赤い電話ボックス
ロンドンといえば、誰もがイギリス式電話ボックスを思い浮かべます。この街の最重要シンボルをリストアップしようとするときにはなおさらです。もちろん、ここイギリスの首都にはビッグベンやロンドン塔、黒塗りタクシー、赤い2階建てバスなどたくさんのアイコンがありますが、赤い電話ボックスも自然と連想されるものといえます。

赤い電話ボックスは間違いなくロンドンの最も大切なアイコンのひとつであり、この街で最もよく写真に撮られているものでもあります。この写真を撮らずにロンドンを離れる人などいないでしょう。

それにしてもなぜ、このいかにもありふれた「もの」が、あらゆる世代のロンドンっ子たちや世界中からやってくる観光客から熱狂的な人気を集めているのでしょうか。

ロンドナーが「赤い電話ボックス」と呼んでいるコイン式電話ボックスは、1920年代初頭にロンドン市長のもとで行われたコンペによって製作されました。

王立美術委員会が主催したこのプライベートコンペには、当時、最も成功を収めていた3人の建築家だけが招待され、その中にはバタシー発電所のプロジェクトやリバプール大聖堂の設計で知られるジャイルズ・ギルバート・スコット卿も含まれていました。

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色鮮やかな赤い電話ボックス


スコット卿は、余分な装飾のないエレガントでクラシックな外観のK2型電話ボックスを提案し、コンペで勝利を収めました。スコット卿が選択したデザインは、曇りガラスの窓を用い、浅い円天井と通気孔を配した電話ボックスで、もともとはシルバーグレーの落ち着いた色合いが想定されていました。しかし、王立美術委員会は離れた場所からも(さらに雨の日でも)よく見える鮮やかな赤色にすることに決めたのです。約1,500基のK2型電話ボックスが設置されましたが、初期の200基は今も残っていて市議会が保存しています。

最初の赤い電話ボックスは、ピカデリーのバーリントンハウスの壮大なエントランスゲートに登場しました。ここは、現在は王立美術院になっています。

初期のK2型電話ボックスは高さが2.75m、重さは1,200kgもあったので、非常に高額で、継続的なメンテナンスも必要でした。その後、代替となるK3型、K4型、K5型の電話ボックスが開発・製造されるようになりますが、これらはどれも材料や重さ、機能、耐久性に関して異なる特徴を備えていました。

その中で最も存在感があり、評判もよく、市内全体に普及したのはK6型電話ボックスでした。これは1930年代にスコット卿が新たに設計した赤い電話ボックスで、従来モデルよりも軽く、金色の王冠が上部に描かれた真っ赤なチーク材のドアが取り付けられています。1930年代に特注・設置されたK6型電話ボックスの数は6万基におよび、現在も約1万基が機能しています。

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伝統的な電話ボックス


残念なことに、携帯電話が出現した現在では、ロンドンの美しい赤い電話ボックスが利用される機会は減る一方で、清掃や効率性の維持にかかる管理費も高止まりしています。これらの電話ボックスは、雨やどりで利用したり、ホームレスの人が避難場所として利用することも少なくありません。現在、赤い電話ボックスの多くはプライベートオークションで売却されていて、ロンドンから世界各地へ散らばっています。ロンドンのファンやコレクターが数千ポンドで購入しているのです。

ロンドナーは、街の最もアイコニックなシンボルのひとつが完全に消滅してしまうかもしれないことを危惧しており、他のあらゆる重要資産と同じように、ロンドン市はこの大切な街のアイコンを保護することになるだろうと私は確信しています。

ほんの数年前、ロンドン市は21世紀型の「電話ボックス」を新設しました。これは黒い電話ボックスで、Wi-Fiへのアクセスや市内通話、携帯電話やコンピューターの充電設備、市内のデジタルマップや観光情報を無料で利用できます。この電話ボックスは、「親戚」にあたるコイン式電話ボックスと比較して、種の進化と例えられています。新しい電話ボックスの中には、従来の赤い電話ボックスと似たタイプのものもあれば、広告ポスターのようなグレーの平行六面体のものもあります(実際、広告を掲載しています)。

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色鮮やかな赤い電話ボックス


今後、イギリスの首都の路上には新タイプの電話ボックスが750基設置される予定で、この取り組みを進めるヨーロッパ最初の地域となる見込みです。この新しい「電話ボックス」には大気汚染や騒音のレベル、外気温度、交通状況を検知するセンサーも完備されます。しかも、電話ボックスに広告を掲載する広告主が資金を提供するため、納税者への負担は一切ありません。

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新タイプのWi-Fi電話ボックス




特派員

  • ジャンフランコ・ ベロッリ
  • 年齢子(ねずみ)
  • 性別
  • 職業ブロガー/ミュージシャン

私がロンドンに引っ越してきたのは2年以上も前ですが、ロンドンの外国人居住者向けのニュースレターで、この大都市での体験や新しく引っ越してきた外国人向けのアドバイスを紹介するようになったのは昨年からです。ロンドンはとてもダイナミックな街で、だれもが楽しめるものがたくさんありますが、迷うことなく満喫するためには地元の人の目線を参考にすることが大切です。みなさんにロンドンの隠れた魅力をお伝えするガイドになりたいと思っています。

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