• 2016.03.29
  • ベルリン映画祭
国際的にも有名なベルリン映画祭は、「ベルリナーレ(Berlinale)」と呼ばれており、暗く寒い冬のベルリンを華やかに彩る風物詩です。

世界各地からやって来た映画ファンが映画館へ行ったり、レッドカーペットを見に行ったり、この雰囲気を体験するためにベルリンにやって来ます。この時期は、観光客も増え、関連する広告や会場がセットされるため、ベルリン市民にとってもお祭りの雰囲気を感じられる街がざわめく10日間です。66回目となる今年のベルリナーレは、合計で33万7000枚の切符が販売され、過去最多の来客数を記録しました。

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レッドカーペット会場

最も注目を集めるのはコンペティションに参加する映画ですが、それだけではなく、様々な部門で、レトロスぺクティヴ映画や、色々な国のミニシアター系映画などが上映されます。私も毎年、プログラムの公開を楽しみに待っていますが、面白そうな映画がたくさんあるので、観たい作品全てを観ることはなかなかできません。

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ポツダム広場のショッピングセンターにあるチケット売り場


権威ある映画賞を与えているベルリナーレですが、チケットがとても高いというわけでもなく、近寄りがたい感じはありません。2010年からはBerlinale goes Kiezという企画があり、これは意訳をすれば「国際映画祭を街角へ」といった感じですが、「空飛ぶ赤いじゅうたん」と銘打ち、街角の小さな映画館でも映画祭上映作品を観れるような枠組みを作っています。こういった工夫も、開催地とイベントを結びつけています。

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全ベルリナーレの上映プログラム

ベルリナーレは、社会的なテーマを扱った作品が評価されるなど、比較的政治色の強い映画祭とされています。今年も最高賞である金熊賞が「Fuocoammare」という、難民問題を映し出したドキュメンタリー映画に送られました。

難民を乗せたボートが多く漂着することで有名な地中海のランペドゥーサ島で、難民の苦しみのみならず、そこに暮らす島民たちの生活が描かれています。ここ最近ヨーロッパでは、難民問題について耳にしない日はありません。しかし、どれだけニュースで議論されても生活が直接的な影響を受けることがない私たちと違い、島の人々は身近なところでこの問題に触れています。非常事態がもはや普通の生活になっている島の様子が淡々と映し出されていることが印象的な映画でした。島に辿り着く人がいたり、助ける人がいたり、ただ自分の生活を続ける人がいたり、小さな島にヨーロッパの縮図を見るようです。

ドキュメンタリー映画が金熊賞をとったことは意外でしたが、問題解決案を提示しないこの映画は、ヨーロッパの最近の当惑を現実的に映し出しています。

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インスタレーション設置時の様子


ベルリン映画祭に合わせて開催される平和のための映画祭、シネマ・フォー・ピースで今年の審査委員長も務める、ベルリン在住の中国人アーティスト艾未未は、救命胴衣を使ったインスタレーションで地中海で水死した難民のことを表現しています。このインスタレーションはジャンダルメンマルクト広場にあるコンツェルト・ハウスに、実際に海岸に捨てられていた救命胴衣を付けたもので、訪れる人の心に強く訴えかけます。

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インスタレーションに使われた救命胴衣は 実際に使われ海岸に打ち捨てられていたもの

艾未未もまた、難民問題を扱ったドキュメンタリー映画を製作しており、そのために、彼は今、使用されていないテンペルホーフ空港で暮らしている難民たちなどでインタビューをしています。

国際映画祭にも、それぞれ特色や政治性を見ることができますが、今年のベルリナーレは特に、時事的な社会現象の一部であったということができるでしょう。海の荒れるこの季節も命がけでドイツを目指す難民がいることを知りながらも、華やかな映画祭を楽しむために、私たちはこのようなテーマにこだわるという妥協が必要なのかもしれません。

しかし、高価な衣服や装飾品に身を包んだ映画関係者たちが、救助された難民に配られる保温シートを羽織る姿には、違和感を覚えずにはいられません。


特派員

  • マーラ・ グローナー
  • 職業リサーチャー、ツアーガイド

出身は南ドイツですが, 10年程ベルリンに住んでいます。ツアーガイドとしても働いています。ベルリンというダイナミックな街で生活していると、新しい発見が尽きません。

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