• 2015.09.25
  • 流れ込む資本と押し出される市民・下町二つの顔
前回少し触れた不動産価格の上昇について、これもベルリンを語る上でポイントとなる問題ですから、もう少し続けたいと思います。

大都市の貧困層居住地区が流行り出し、富裕層が流入、本来の生活者を押し出すことを『ゲントリフィツィールング』、日本語ではジェントリフィケーションと言い、都市の成長過程によく見られるものです。ベルリンでも、国内外の資産家が、様式上好まれる古い建物を投資目的で買い、その煽りを受けて、元々生活していた低所得者は、家賃を払い切れずに滞納が続いて退去、などという話も珍しくありません。警察による強制退去の日、多数の支持者が路上に座り込みそれを妨害するといったこともありました。

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ベルリンのジェントリフィケーションは、やはり壁崩壊が影響しています。国内の他都市と比べても安かったベルリンが、首都移転と再開発に伴い、価値を上げていくのは当然と言えば当然のことです。十数年前は、開発予定地の砂原にプラットフォームがぽつねんと建っていたレアター駅は、今はガラス建築の中央駅として生まれ変わりました。欧州最大の立体交差駅として、各国各地への列車や市内公共交通が往来しています。90年代は更地だらけだったポツダム広場も、オフィスビルや高級ホテルが建ち並んでいます。2000年代半ばからのジェントリフィケーション加速も、こう振り返ってみると、展開の遅さが不思議な程です。

壁崩壊によって街のはずれから街の中央になった、西ベルリンの下町・クロイツベルク地区の一角に、ドイツ表現主義を代表する建築家ブルーノ・タウトが手掛けた建物が、1932年に完成した当時の姿そのままに残っています。しかし、高級アパートとして分譲販売されると、このタウトハウスに石やペイントボールが投げつけられ、一階部分が見るも無惨な姿に破壊されました。ガラスを何度入れ替えても、直ぐにまた壊されるので、再び修理する代わりに、巨大絆創膏を張った破損部分の横にメッセージが添えられるようになりました。いくつかを訳しますと「このガラスの後ろに居る人たちの為の碑」「変わり続ける街の為の碑」「多様な人々の共生の為の碑」などという具合です。8年間も無人で放置されており、誰も追い出されていないにもかかわらず、このような仕打ちを受けるタウトハウスは、ジェントリフィケーションの対立を象徴している様に思います。

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不動産価格の高騰に伴って、居住者の層、商店のクラス、街の雰囲気は変わり、従来の居住者は住み辛さを感じる様になっています。「クロイツベルクは汚くあり続ける」というような壁の落書きもあるように、グラフィティや割れたガラスは、オシャレブティックや有機食品店に対抗する、従来の住民による街の雰囲気作りという側面も持っています。一方で所有者側は、これもモダンアート風に展示してしまうのですから、余裕があります。財力を築いた上で下町に拘りたい富裕クロイツベルク人らしさがあると言えるでしょう。

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資産がある市民も、家賃を払い切れない市民も、権利を主張し合うドイツ、局地的ジェントリフィケーションの波紋が重なり合い、市全体の不動産価格が上昇し続けるベルリン、今後どのように変化していくのか見守っていきたいものです。

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特派員

  • 渡辺 玲
  • 職業通訳、中華料理店店長代理

ベルリン自由大学の修士課程を卒業。専門分野は、映画理論、ドイツ新現象学、神経哲学。ベルリン在住13年目、住んでいると当たり前になってしまうベルリン生活を、皆さんへご紹介することで再発見していきたいと思っています。

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