• 2015.05.28
  • マグロ村のマグロ祭り
アンダルシアの町々で街路樹のジャカランダが紫の花を咲かせ始める頃、北大西洋を回遊しているマグロ達*1は産卵のために地中海を目指します。ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸がだんだんと狭まって指呼の間となるジブラルタル海峡。そこへ向かうマグロの群れを待ち構えているのが、海岸近くに仕掛けられた定置網です。Almadraba(アルマドラバ)漁と呼ばれ、フェニキア・ローマ時代から現在まで、約3000年も続く伝統漁法です。

冷蔵・冷凍技術のない時代、捕獲されたマグロは、塩漬や干物などに加工され、グルメ垂涎の食材として地中海各地へ出荷されていました。その中には、ローマ人の食卓に欠かせなかった調味料『ガルム』もありました。マグロの端肉や内臓に小魚などを塩蔵発酵させた、いわゆる魚醤ですね。このマグロ産業*で大いに賑わったのがカディスという町でした。スペインの南西の大西洋岸に位置するこの町は、ブリタニアとの錫(スズ)貿易の中心地でもあったようです。紀元前一世紀の歴史・地理学者ストラボンによると、当時は地中海世界でローマに次ぐ第二の都市だったとか。

[caption id="attachment_449" align="aligncenter" width="350"] 紀元前3世紀、カディスで鍛造されたドラクマ硬貨の裏にはマグロ。表はフェニキアのヘラクレス(メルカトル)神。   写真1:紀元前3世紀頃、カディスで鍛造されたドラクマ硬貨の裏にはマグロ。表はフェニキアのヘラクレス(メルカトル)神。 [/caption] アルマドラバ漁は下火になりましたが、カディス県では、まだ4つの町がその伝統を守っています。その中の1つは、マグロ漁が盛んで、名前にもマグロを冠したZahara de los Atunes(サアラ・デ・ロス・アトゥネス、直訳は『マグロのサハラ』かな)。この村では、毎年、アルマドラバの時期になると、Ruta del Atún(ルータ・デル・アトゥン『マグロ巡り』*2)というお祭りを開催します。今年は5月12日から1週間でした。マグロ解体ショーで幕を開け、39軒もの飲食店がマグロを使ったタパス料理のコンクールに参加。マグロ音頭やマグロ関係の展覧会など、マグロ一色で盛り上がっていました。

写真2:マグロ祭りオープニングの解体ショー、頭は最後です。
内臓込210㎏のマグロを二人で12分

写真2:マグロ祭りのオープニングは、マグロの解体ショー。重さ210kgのマグロを解体するのに、二人で12分でした。

この村から10Km程度離れた浜辺には、紀元前200年頃にローマ人が建設したBaelo Claudia(バエロ・クラウディア、『クラウディウス帝のバエロ』)という遺跡があります。マグロ産業の中心地として、水揚げや加工済み製品の出荷の便宜を考え、浜辺に築かれたものです。マグロ解体場、塩蔵場や魚醤発酵甕に加えて、村に比して立派な公共広場、野外劇場や神殿などがあった跡は、昔日の繁栄を偲ばせます。広場中央に立つローマ皇帝トラヤヌス*3の石像が見おろすビーチには、今では、北ヨーロッパから太陽を求めてやってきた旅行者たちが寝そべり、さながら水揚げされたマグロの群れのようです。

[caption id="attachment_453" align="aligncenter" width="300"]BaeloClaudia(バエロ・クラウディア)遺跡の塩蔵槽と魚醤発酵甕。写真3: Baelo Claudia(バエロ・クラウディア)遺跡の塩蔵槽と魚醤発酵甕。[/caption]
最近は、急速超低温冷凍技術のおかげで、時期を問わず美味しいマグロを味わえるようになりました。とは言っても、このアルマドラバ漁が始まる、旬の大西洋本マグロは絶品です。定番のわさびと醤油だけでなく、一瞬炙ってから、岩塩と挽きたての黒胡椒を振りかけ、オリーブ油を数滴たらしたものは、赤ワインのアテにオツです。スーパーでスペイン産のマグロを見つけられたら、アンダルシアの青い海と空を想像しながら、お試しあれ。

[caption id="attachment_450" align="aligncenter" width="225"]写真4:Baelo遺跡の名前を付けた珍味Mojama(モハマ)というマグロの干し物。2200年前と同じ味かも。写真4:Baelo遺跡の名前を付けた珍味Mojama(モハマ)というマグロの干し物。2200年前と同じ味かも。[/caption] <註>
*1.マグロ達-スペイン語ではAtún rojo del Atlántico(直訳は大西洋マグロ)、
  英語ではAtlantic Bluefin Tuna(直訳は大西洋ヒレマグロ)、
  日本語では大西洋マグロのこと。色とりどりです。
*2.Ruta del Atún-『マグロ巡り』の公式HPはhttp://rutadelatun.com/
  コンクールに出品されたタパス料理もご覧頂けます。
*3.イスパニア(スペイン)のセビリア出身。言ってみればスペイン人のローマ皇帝。

特派員

  • 山田 進
  • 年齢寅( とら )
  • 性別男性
  • 職業スペイン語・日本語通訳

スペイン政府より滞在許可と労働許可を頂き、納税・社会保険料納付をはじめて早37年。そろそろシルバー人材センターへの登録も視野に入った今日この頃、長い間お世話になったこの国のことを皆様にご紹介できることを楽しみにしています。

山田 進の記事一覧を見る

最新記事

おすすめ記事

リポーター

最新記事

おすすめ記事

PAGE TOP