• 2024.01.12
  • ブーイング
毎年恒例のスカラ座のシーズン幕開けのオペラが、今年もミラノで上演された所です。
12月7日はミラノの守護神を讃えるミラノの祝日となっていて、それに合わせて毎年スカラ座でオペラが上演される事が決まっています。大統領、政治家、スポーツ選手、ファッションデザイナー、俳優、TVタレントなどが特別に招待される大イベントなのです。


スカラ座のすぐそばのヴィットリオ エマヌエレ 2世 ガレッリーアに設置された巨大スクリーンで、一般市民も立ち見で自由に鑑賞できるようになっています。自宅で国営テレビの中継で鑑賞する人もいます。


幕開け初日とも呼ばれていて、観衆の立場から見れば豪華の一言に尽きるイベントですが、反面、オペラに参加する方の主役のオペラ歌手たちにとっては、歌手人生の中で最大的挑戦になることでも知られています。

なぜなら耳の肥えた聴衆から、賛辞の歓声と拍手も貰える事もあれば罵倒のブーイングも浴びせられる事もあって、日本の穏やかな聴衆の反応とは違い、成功か不成功かがハッキリしてしまうのです。

この耳の肥えた聴衆とは、招待客では無くて、劇場の一番上の天井桟敷の常連さんたちの事で、言うまでも無くオペラの熱狂的ファン。

大抵は、翌日の新聞などで、13分間に渡る拍手喝采の夜、と言ったような見出しの記事になっていて、よくよく調べると実はブーイングも出ていた事をほぼ毎年発見します。

今年は、ヴェルディ作曲、舞台がスペインのお話であるドン カルロが初日のオペラに選ばれました。

オペラファンたちが感動を分かち合うためのイベントが催され、クラシックファンが集うお店などに集まって、巨大スクリーンでオペラを共に鑑賞し、第一幕と第二幕の間の長い休憩時間には、スペインが舞台であるオペラに因んで、スペイン料理がまかなわれる企画もあったりして、音楽と料理への情熱を欠かさないイタリア人の特徴がよく出ている夜会もあったりします。

去年は、ロシアの作曲家のオペラが上演されたのですが、ロシアとウクライナの戦争真っ只中で、それゆえにこのロシアのオペラの選択は物議を醸し出して、抗議運動が劇場前で行われたりもしました。

更に過去に遡ると、2006年には、ヴェルディ が作曲した最高傑作の一つであるアイーダを、私はヴィットリオ エマヌエレ 2世 ガレッリーアに設置された巨大スクリーンで鑑賞していましたが、世界のトップ テノールの1人であるアラーニャが有名なアリアを歌い終わった後に、拍手に混じってブーイングが!

私の聞き間違えかと思っている内に、アラーニャが怒って(?)舞台退場。あれよあれよという間に次のシーンが始まり、代役のテノール歌手が、衣装も付けずにメイクもなしに普段着で登場して歌い出した、という世間を騒がせた幕開け初日でした。

最近は、歌の出来栄えに対して不満のブーイングをするのではなくて、裏事情があって政治的な要因が絡んでいる場合が多く、ブーイングが策略的で習慣化としているように見えます。

特派員

  • 三上 由里子
  • 職業音楽家

チェリスト。ミラノを本拠地にソロとアンサンブルの演奏活動中。クラシックからポップスまで幅広いジャンルのレパートリーを持ち、イタリアの人気コメディアンの番組にバンド出演中。

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