Interview

各界のスペシャリストにインタビュー。
意外な組み合わせで、OMOSIROI答えを探る。

ぼくらのそばにいつもウイルス

僕らのそばにいつもウイルス ウイルス学者X日常生活

新型コロナウイルスの流行で、ウイルスに対してすっかり
ネガティブな印象を持ってしまった私たち。
約2千人の研究者が籍を置く「日本ウイルス学会」の理事長であり、昆虫ウイルスを用いたワクチン開発を先導している松浦先生には、今の世の中はどう映っているのか??
ナレッジキャピタルSpringX「超学校ONLINE」でも
新型コロナウイルスについて講義いただいた松浦先生に、
新しい生活のヒントを探るインタビュー!

松浦善治さんの写真

日本ウイルス学会 理事長
大阪大学微生物病研究所 前所長

松浦善治

まつうらよしはる

1986年北海道大学獣医学部大学院修了。オックスフォード大学NERCウイルス研究所ポスドク、国立感染症研究所ウイルス第二部肝炎ウイルス室長などを経て、2000年より大阪大学に勤務。現在「日本ウイルス学会」で理事長を務め、新型コロナウイルスのワクチン開発を指揮。

僕たちはウイルスまみれがあたりまえ

生き物の中には必ずウイルスがいます。私たちの体も、約40兆個の細胞と、約100兆個の微生物(カビ、細菌)やウイルスでできていて、細胞よりも微生物とウイルスの方がだいぶ多いんですよ。そして、ほとんどのウイルスは、私たちにとってプラスになるようなもので、病気を起こすウイルスの方が少ないんです。むしろウイルスがいないと、健康じゃない。だからね、神経質になりすぎて、むやみに全身をせっけんでゴシゴシ洗ったり、アルコール消毒を徹底的にするのは、本当はよくないんですよ。体を守っているウイルスも死んでしまうので。もちろん、外出やトイレの後に手を洗うことは必要ですが、バランスが大切です。

デスクと椅子にも様々なウイルスがついている様子のイラストと写真
研究所の写真

慣れない環境にウイルスもびっくりしているんです。

ウイルスの目線で見るとね、人間から近づいてきたんであって、彼らからは何もしていないんです。例えば、デングウイルスもジカウイルスもそう。これまでウイルスとうまく共存していた動物に、人間が深く関わりすぎた。地球温暖化の気候変動で住む環境が変わったり、ジャングルの開拓であったり、かなり人的要因が多いんですよね。
今回の新型コロナウイルスにとっても、コウモリの中で平和に暮らしていたところに、突然人間がやってきた。いきなり環境が変わると、ウイルスもパニックを起こして、大暴れしてしまいます。感染症が広がるときって、大抵はそんな状況です。

①大阪大学微生物病研究所
②③イメージ画像

仕事姿の先生とデスクにかざってある生徒からの贈り物の写真

朝は4時前に起きて、22時に寝る。

研究者としての生活は、コロナが流行する前から変わりません。昔から早寝早起きなんですよ。それと、週に3回くらいは朝に走ってます。10kmくらいですかね。走って帰ってきて、お風呂に入ってご飯を食べて…ラボに来るのは7時前です。朝の方が仕事がはかどるでしょう。たくさん来ているメールを確認して、学生の論文をチェックして、研究費の申請をしたり、報告書を書いたり…。白衣を着て実験するのは、滅多にないですね。PI※といって、実験の方向性を決めて「ああして、こうして…」とスタッフに指示をする役です。意外ですか? 実際に、自分で手を動かして実験できるのは40歳くらいまで。研究人生って、本当に短いんですよ。
もうねぇ、僕が実験していた頃と、機械もずいぶん変わってますしね。みんなに迷惑をかけないように、実験道具はあんまり触らないようにしています(笑)。

※PI…principal investigatorの略。研究室や研究グループのヘッド。

僕が体調を崩すのはストレスがたまっているとき

とにかく、ウイルス対策には、免疫力を高めることが大切です。よく寝て、栄養バランスの良い食事をとって、ストレスをためないこと。それが一番ですね。
昔、東京に住んでいたときは、往復3時間、満員電車での通勤がつらくて、しょっちゅう風邪をひいていました。20年前、大阪大学の教授になってからは、すごく元気。風邪もひきません。
あ、でも1回だけ大病にかかりました…。5年ほど前、仕事の関係でストレスを感じていた時、手足口病※になりました。大人がかかると重症化することがあるでしょう。私も全身に発疹が出たんですが、ウイルス学者が感染症にかかるなんてかっこ悪いと思って我慢してたら、うちのかみさんが「お父さんいいかげんにしなさい」って。仕方なく病院に行って診察を受けたとき「お勤めは?」と聞かれて、微生物病研究所ですって答えたら「何をされましたか?!」ってびっくりされちゃって。何もしてません、ただの手足口病だと思いますって(笑)。結局、人生で初めて入院しました。ウイルスって怖いですね。ははは。

※手足口病…エンテロウイルスやコクサッキーウイルスに感染することで、水ぶくれ状の発疹が現れる病気。

微生物研究所の写真

コロナ対策について特別なことは何もない。一般の方と一緒です。

インタビュー中の写真

コロナ対策について特別なことは何もない。一般の方と一緒です。

この春から、週に1回やっていた学生とのミーティングがZoomになったり、出張が減ったり、生活の変化はありました。でも、僕は教授室に一人ぽつんといることが多くて、人との接触は、もともと少ない方。用事がある学生がいれば、お互いマスクをした状態で、一人ずつ部屋に入ってもらっています。
あとは、マスクをして、手洗いをする。当たり前の予防を、大切にしています。ワクチン開発の現場で、直接ウイルスを扱うときは緊張しますけどね、それ以外は過剰に恐れません。

ワクチン開発に使うのは、昆虫のウイルス。僕のかわいいペットです。(笑)

新型コロナウイルスのワクチン開発には、バキュロウイルスという、昆虫のウイルスを活用しています。このウイルスに、コロナウイルスの遺伝子を組み込んで、昆虫の細胞でコロナウイルスそっくりの粒子を作らせるのが、今考えている方法です。
僕はバキュロウイルスを30年以上研究していますが、いつ見に行っても元気だし、いろんな遺伝子で本物そっくりの粒子を作ってくれるし、ペットみたいでかわいいんです。
今後、ワクチンが開発されたとしても、新型コロナウイルスが人間界から消えることは多分ないでしょう。でも、いずれは風邪やインフルエンザのように、共存できる日が来ることを願っています。

一問一答

みんなの知りたい!を聞いてみる

●先生流ステイホームの楽しみ方は?

かみさんと相談して電子ピアノを購入しました。でも向いてないですね、すぐに挫折しました。

●家に帰ってまずすることは?

みんなと一緒。マスクを捨てて、手洗いです。特別なことはしていません。

●食事へのこだわりは?

ヨーグルトとか納豆とか、発酵食品をよく食べます。これはかみさんの趣味ですが、おすすめですよ!

生物はウイルスがいないと生きていけない共存している存在なんです。

撮影場所:大阪大学微生物病研究所

撮影:佐藤佑樹(インタビュー風景)

※2020年7月取材時の記事です。

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