変化の激しい時代において、将来の状況を予測することは難しいもの。予期せぬ出来事がキャリアを左右することも。ナレッジキャピタルがサポートを務める女性起業家応援プロジェクト『LED関西』で2021年にナレッジキャピタル賞を受賞し、起業に向けて邁進中のキャサリン&ナンシーの二人に、さまざまな転換点について話を聞いた。
キャサリン
KATHERINE
竹内 かおり
金融講座ではスライド調整&盛り上げ担当。小中高3人の母。趣味は株式投資と読書。
■資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士、AFP、証券外務員1種、秘書検定資格
ナンシー
NANCY
西岡 奈美
金融講座では構成&進行担当。中学生と小学生2人の母。趣味はバドミントン。
■資格/1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®、証券外務員1種、中高英語科教員免許
大手証券会社出身で、ファイナンシャルプランナーとして活動する二人組。キャサリンは秘書検定資格、ナンシーは教員免許保持者。共に子を持つ母でもある。子ども向けマネー教育・大人向け投資教育を2021年現在で、合計270講座以上実施。金融庁主催の親子講座への登壇など、金融に関わる学びを多岐にわたって提供する。活動開始からまもなく10年。現在、法人化を目前に控える。
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- 公立にこだわる
- 大学や企業の新入社員研修も請け負うが、約8割は公立学校や公的機関で講義を行う。限られた人だけでなく、より広いターゲットに知識を届けるため。
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- 双方向の授業を大切に
- 一方的なレクチャーではなく、子どもたちをはじめとした参加者が自ら答えられるように。「自分で考えてもらう」ことが何より大切。
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- 常に新しいことにチャレンジ!
- こまめなSNSの配信も、オンライン講座も、苦戦中の動画制作も!まずは自分たちでやってみることで、気づくことが多いから。
–– ピンクとブルーの診察衣に、キャサリンさんの鼻メガネと大きなリボンまでがユニフォームだそうですが、どうしてそのスタイルに?
キャサリン(以下K):小学校で子どもたちに向けてマネー教育をする場面では、一目で覚えてもらえて、「面白そう!」と思わせられるかが、とても重要なんです。
ナンシー(以下N):「ファイナンシャルプランナー(以下FP)=お金のお医者さん」ということを印象付けるために、この診察衣は医療系のドクターが着用している本物を用意しました。袖にも私たちの名前の刺繍が入っているんですよ。
K:名前といえばキャサリンという呼び名や鼻メガネは、活動開始当初、私が本名や顔出しに抵抗があったからなんですが、それが結果としてはブランディングにつながっていったんです。
N:活動スタート時は「キャサリン&西岡奈美」でした。でも、子どもたちの覚えや反応がいいのは圧倒的にキャサリンの方。この糸口は逃してはいけない! と感じて、急いで「奈美」も欧米化して「ナンシー」に(笑)。
K:私がふざけた名前とビジュアルだから、もう一人はちゃんとしておいた方がいいかと思ったら、「キャサリンとナンシー」の方が正解だった。依頼が一気に増えたよね。
–– 細部へのこだわりがあるから、信頼感と楽しさのバランスが絶妙なんですね。お二人で組む前は、どのような働き方をされていたのでしょう。
N:私は子どもの頃から学校の先生になりたくて、教員資格も取ったんですけど、教員採用試験に落ちてしまったので、内定をもらっていた証券会社に入社しました。いざ入ってみると証券会社の営業は苦しくもあり、楽しかったです。たくさん学ばせていただきました。
K:私も同じく証券会社で窓口業務と営業を経験しましたが、起業をしようと思って辞めた訳ではなく、結婚や出産などの環境の変化があったからです。
–– お二人で組む前は個人で活動されていたかと思いますが、学校を活動の場に選んだきっかけはありますか。
N:これまで誰かに子ども向けのマネー教育の話をしても、「いいね、大切だね」と共感はしてもらえても、実際に行動に移すまで手伝ってくれる熱量のある人はいなかった。でもキャサリンは自分の子どもが通っている学校の担任の先生に営業をかけてくれたんだよね。結構リスキーなことする人だなって思った(笑)。
K:そう? 一つでも多く実績を作りたかったのと、他の特別授業と同じくらい金融教育も必要だって思ったから息子の担任の先生にプレゼンしてみたんだよね。
N:私の場合は、どこかで「教師になれなかった」という気持ちがコンプレックス的に残っていたかもしれないですね。
K:私にはそれが個人で活動していく上で、すごい強みに映ったよ。子育て業もある私たちがFPとしてやっていくには、資本力も実績も、時間も限られているから無理はできないじゃない? 何かで個性を出さないと生き残れないなか、FPのフィールドに子どもや公教育という独自性のある要素を取り入れられたのはナンシーの存在が大きかったよ。
–– スタートとしては順調な滑り出しにも見えますが、その頃から起業を目指してお二人でやっていくスタイルになっていったのでしょうか。
K:誰もやっていないことはお金になる、というのは一般的にはサービスが成り立つ基本ではあるんだけど、こと学校に関しては、お金にならないから誰もやっていなかったんです。
最初の頃はほぼボランティアみたいな状況で、金融教育なのに無報酬というジレンマを抱えながらでしたね。
N:これは子どもたちにとって必要な教育だし、ビジネス第一じゃなくても、子どもたちの未来が豊かになる社会にしたいという気持ち。それとは裏腹に、この活動に共感して手伝ってくれるFPの人たちが経済的な理由で続かなくなる現状もあったんですよ。
私たちだけが現場で頑張っても、マネー教育は広がらないんだ、と気づいて、ちゃんとお金になる仕組みを作りたいと思ったのが、二人での起業を目指したきっかけかな。
K:私の場合は、それに加えて義理の祖父母との同居の話が舞い込んできて。夫は三男だったので、予想していなかったですね。
で、引っ越してみたらすごいのどかな場所で。このままだと家と畑の往復の人生で終わっちゃうかも…。子どもも3人いるし、パートを探すのも難しいだろうなと思いました。結婚や出産のタイミングはある程度は自分でコントロールできるかもしれませんが、同居や子育て中のあれこれってそうはいかないので。予期しないことにも対応できるキャリアプランとして、起業という選択肢が浮かんだように思います。
–– 二人組ならではのエピソードはありますか。
N:FPって、一般的には一人で活動するものだから、二人組だと驚かれることが多いよね。
K:マネー教育で小学校を訪れる時も、資産運用の相談を受ける時も必ず二人で、というのが私たちのルール。いろいろな角度から選択肢を検討してもらいたいからね。
N:少なくとも、最初からセカンドオピニオンを聞くことができます(笑)。でも、私たち自身にとっても組むメリットは多いと思う。
K:一緒に活動する前はそれぞれソロで活動していて、他にも同じような志を持った仲間が何人かいたじゃない? なのに、なんとなく私たち二人で組むことになったよね?
N:いやいや、私は意志を持ってキャサリンを選んだよ。
K:えーっ! そうだったの?
N:さっき話してた最初の学校への営業もそうだけど、私の「こういうことがしたい!」という提案に対して、フックを見つけてくれるんですよ。それに後押しされて私もホームページを作るための助成金を探して「これ使えるかもしれない」ってなる。業種にもよると思うけれど、私たちの場合は、同じことが得意な人と組むより、お互いの足りないところを補い合えるパートナーと組めて良かったんだと思う。
–– 確かに、ボケとツッコミのように、二人の性質や得意分野の役割分担がうまくマッチングしているように思います(笑)。
K:私は、ナンシーの行動力にいつも驚かされます。賞レースやコンテストの締切が2週間前でもアンテナがたつと「やってみようと思う!」と。私は「いいと思うけど、タイトなスケジュールよなぁ。」と一瞬なるのですが、そのアンテナの感度が抜群で、私たちの転機になる良い結果をいつももたらすのでフル回転して全力で取り組もうってなります。
N:3日だったらさすがに考えるけど、2週間あれば何とか準備できそうでしょ? それに、教材とか資料とか、そのために必要なものは最初に私がたたき台を作るけど、それをキャサリンに渡したらいい感じのスライドや小道具に整えてくれるからありがたいんです。
K:これを十数回繰り返しているうちに、きちんと仕上がるのが私たちのスタイル。
N:いうなれば、バドミントンのダブルスだよね。卓球のダブルスは必ず交互に打たないといけないけれど、バドミントンは取れる方が連続で打ってもいい。FPもお互いにパートナーが取りこぼしたものをカバーする力があると強いと思う。
K:お互い出会えたのは、本当にラッキーだったよ。
–– 活動している上で、周囲の変化を感じることはありますか。
K:私たちがお金の話をする一番身近な相手は家族です。家では高校生の長男ともよく株式トークをしますが、株式を通して世界のニュースや企業の方針から社会の動きを読み解く面白さを感じているのが伝わってきます。2022年度から始まる高校の新学習指導要領では、家庭科で株式や債券、投資信託などの基本的な金融商品について教わることになるんですけど、そういう俯瞰的なものの見方がより多くの若者に広まればいいなと思います。
N:やっぱり、私たちの講座を受ける対象に近いということで、自宅でも子どもたちに聞いていてわからないところがないか、チェックをしてもらうことも多いんですよ。
K:そうやって知識が自然と身についているからか、お小遣いについて自分なりの意見を提案してくるのも早かったですね。上の子たちを見た3番目の子は、4歳の時に「ぼくもお小遣い欲しい」と言ってきて。年齢を考えると、月に一度まとめてお金を渡すより、お手伝いごとに渡すことにしました。 家のお手伝いにお金を払うってどうなんだろうと悩みましたが…。
でも結果、炊事、洗濯、掃除、家計の管理など、自立に必要なことに一通り気付き、身につけてもらえたことが、思った以上の収穫で良かったかなって思います。
–– これまでの活動で、印象に残っていることはありますか。
K:私はやっぱり金融庁主催の講座で60組の親子と関わらせてもらったときかな。
N:講座を作っていく中でもかなり苦労してしんどかったけど、結果周りの方の力を借りてうまくできたのはよかった。
でも、私の場合印象的な講座っていうのはスムーズにいった時より、うまく行かなかったことの方が残りやすいかな。「あー、あの時の質問や意見にはこう返せば良かったな」とか思い返して、3日間ほど夢に見る。
K:ナンシーは記憶力もいいんだよね。私は一旦受け止めて、寝たら忘れちゃう。
N:二人でうじうじと引きずるよりずっといいけど、そういうところも私たちは全然違うよね。
–– この豚の貯金箱も教材なんですか?
ちょっと見慣れない仕切りがついていますが。
N:これは「ピギーバンク」といって、私たちの講座に必ず登場する貯金箱。子どもたちはこの通称「ピギーちゃん」を使って4つのお金の管理を学ぶことで、自分のお金を自分以外の誰かに使う事ができるようになるんです。
K:「ためる」と「つかう」はわかるけど、日本では大人でも「ゆずる」と「ふやす」という考え方に馴染みがない人は多いよね。
N:ピギーちゃんの頭から尻尾にかけての順番も大事。いきなりゆずったり、ふやしたりというのは難しい。やはり、お金の流れというだけあって、起業に関しても共通する部分があったような気がするなぁ。
–– ビジネスにおいても「ゆずる」「ふやす」の場面があるんですね?
N:そう。私たちは1番にはなりたいんだけど、独占したいわけじゃないんですよね。この考えを広めたいという思いはあって、今は「ふやす」の時期にさしかかっているところかな。
K:実績を積んだことできちんと対価をもらえるようになってきた今、ノウハウを他の人にも伝えて、私たちのような存在を増やしていく段階にようやくなったのかも。本の出版やコンサルティングを通して、教育的にも経済的にも持続可能なものにしていきたいです。
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まずはファーストステップとして貯金を練習。目標は手取りの2割。
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自分が何に使えば幸せか、豊かになれるかを考えて使う。
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自分のお金を自分以外の誰かに使う。
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今使っていないお金を必要とするところに投資し、活用してもらうためのお金。
社会の豊かさを生むためのお金。
Money Savvy Pig(日本名:ピギーちゃん)の画像およびその加工物は米国Money Savvy Generation社の知的財産であり、I-Oウェルス・アドバイザーズ株式会社が同社との契約を基に日本における独占使用権と販売権を有しています。I-Oウェルス・アドバイザーズ株式会社の許可なくして使用を禁じます。
お金のカタチが変わっても変わらないたった一つのこと
コロナ禍で加速したキャッシュレス化により、現金より電子マネーの方が身近な子も多い昨今。本気か冗談か、「お金はどこからくるか」という質問に「ATMから」と答える子もいるという。キャサリンとナンシーの金融教育では、最後に必ず「お金はありがとうのしるし」であることを伝えている。お金の流れと仕組みをみんなが理解することで、社会がより良く、豊かになるのでは、と社会全体の公教育化にも期待を寄せる。