Interview

各界のスペシャリストにインタビュー。
意外な組み合わせで、OMOSIROI答えを探る。

Interview 進化を楽しむ 新時代の生存戦略

デジタル × 生物の進化

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CGアートの世界的先駆者として、45年以上にわたり活躍し続けている河口洋一郎先生。プログラミングにより、生き物のように自己増殖する造形理論「グロースモデル」を確立し、デジタル世界の中で見たこともない生命体を生み出し続けている。CG黎明期からその類まれな発想力で時代の先を走ってきた河口先生に、激変する時代の生き方を聞いた。

CGアートの世界的先駆者として、
45年以上にわたり
活躍し続けている河口洋一郎先生。
プログラミングにより、
生き物のように自己増殖する造形理論
「グロースモデル」を確立し、
デジタル世界の中で見たこともない生命体を生み出し続けている。
CG黎明期からその類まれな発想力で
時代の先を走ってきた河口先生に、
激変する時代の生き方を聞いた。

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アーティスト
東京大学名誉教授
一般財団法人デジタルコンテンツ協会 会長

河口洋一郎

YOICHIRO KAWAGUCHI

2018年より東京大学名誉教授。1975年CGの黎明期よりCGによるプログラミング造形の研究に着手。数理アルゴリズムにより導き出された独自の作品『Growth Model』で世界的注目を集め、2018年ACM SIGGRAPH Academyを授与される。(CG界の殿堂入り)現在も未来生命体のインテリジェンス、beyond AIをテーマにバーチャル、リアルの双方からアート&サイエンス作品を追求している。ベネチアビエンナーレ‘95日本館代表作家。2000年代よりインタラクティブ作品、プロジェクションマッピングの先駆けを発表。ナレッジキャピタル設立時にはThe Lab.みんなで世界一研究所のアドバイザーを務める。

シーグラフ(SIGGRAPH)とは、世界最大のCGの祭典ともいわれるCGの国際学会。学術発表のほか、映画産業や企業が最新技術のデモンストレーションを行う。

年表
新しい技術が出てくるたびに一からやり直してきた

――2023年のシーグラフ(Siggraph)50周年記念大会で河口先生の作品は「The Algorithmic Revolution in the Visual Arts」と称されたそうですね。ご自身も大変名誉に感じられているとのことですが、シーグラフにはいつ頃から参加されていたのでしょうか?

初めて参加したのは1979年です。僕がCGを始めたのが1975年。日本で数台しかなかった画像出力できるコンピュータとディスプレイが大学の研究室に導入されたので、たまたま着手することができました。1学年上の先輩たちはX-Yプロッター※1 による作画をしていたので、もし1年早く入学していたら今の僕はありませんでしたね(笑)

河口先生の代表作品。レイトレーシング・メタボールによる『Growth:Aqua』
▲河口先生の代表作品。レイトレーシング・メタボールによる『Growth:Aqua』

――そんなタッチの差だったとは驚きです。運命的な出合いでしたね。

当時は日本のCGの最先端は白い線画レベルでしたが、それでもコミュニケーションを取れる生き物を作りたいと思って研究を始めました。ただの美しいパターンを描くのではなく、今でいうメタバース空間のようなことを構想していたわけです。立方体を描くだけでも技術的には難しく大変だったのですが、生き物が自分で成長して変化していくと魅力的だと思い、ロトカ・ヴォルテラの数理モデル※2 を使って画面のなかで生物が生死を繰り返すエコロジー空間をプログラミングしました。それと並行して行っていたのが、アンモナイトやオウムガイといった自然界に生まれる美しい螺旋の研究です。その両輪から、「グロースモデル※3 」という自己増殖する造形理論が生まれました。

――今から50年近くも前、線画しか描けない時代からコミュニケーションの取れるデジタル生命体を生みだそうとされていたのですね。

はい。1979年のシーグラフでは、色のついたCGが発表されていてものすごい衝撃を受けました。僕は色が大好きなので、すぐにアメリカのコンピュータを導入し、線画を色に変えていったんです。色が出るといっても256色程度だったのですが、そこからどうすれば数百万色を出せるか研究していました。80年代に入ると、今度はメタボール理論が登場します。メタボールというのはグニャグニャでなめらかな液体状の表現ができる技術で、大阪大学の大村皓一先生たちのグループが開発されていました。この大村先生が「グロースモデルに絶対合う!」と誘ってくれたのですが、おかげでグロースモデルがずっと有機的になりました。

――最近は生成AIやメタバースなど、デジタル技術がものすごいスピードで進化していますが、70〜80年代も激変の時代だったんですね。なんだか状況が重なるような気がします。

※1 X-Yプロッター…コンピュータなどで作成した図面を、固定された軸に沿ってペンが縦・横方向(X,Y軸)に動くことで正確に出力する機器。

※2 ロトカ・ヴォルテラの数理モデル…生物の捕食-被食関係によって個体数がどのように変動するかを表現した数理モデル。

※3 グロースモデル…動植物の成長や進化の課程から河口先生が導いた新たな造形アルゴリズム。作品では生命体が細胞を増殖させる様子を見ることができる。

AIを弟子にすることで自分の才能を増幅させる

――現代を生きる私たちは、激変の時代をどう乗り越えていけばいいのでしょうか?

とにかく流行りの技術に没頭する人もいますが、2〜3年で消えてしまうこともあるのがメディアテクノロジーの変⾰の流れです。生成AIやメタバースを学ぶのもいいのですが、新しい技術には今の子どもたちのほうがずっと早く順応するわけですから、すぐに追い抜かれてしまいますよね。今は激変する技術を楽しみながら、自分の好きなことや得意なことといった独⾃性を伸ばしていくといいと思います。自分が60代になったときのことも考えながら、やりたいことをもっとおもしろくするために新技術を取り入れるんです。レオナルド・ダ・ヴィンチは解剖学や流体力学、機械工学、光学などさまざまな分野のことを考えながら『モナ・リザ』を描いていますよね。僕も基本的な出発点は「Arts & Science」。工学や生物学の知識・技術と芸術を融合させ、サイエンスの⽬と感性の刺激を持ち続けることで今⽇までやってこられたと思います。これから新しいことをしたいという人も、なるべく両極のものを自分のなかに持っておいて、それらをもって未来を乗り越えていくのがいいのではないでしょうか。

河口先生

――技術に振り回されるのではなく、やりたいことのために技術を取り入れるという考え方ですね。

そうですね。それから異分野の人と組むことでも個人の才能を増幅させることができますが、今はその相手にAIも加わりました。棋士の藤井聡太さんがAIと対戦して腕を磨いているのは有名ですが、AIには100の力を110、120にまで伸ばせる可能性があります。才能を持つ人は、AIを自分の弟子として活用できるはず。論文や詩、小説、絵画、建築設計など、生成AIはあらゆることを行うようになっているので、もしかすると今まで高く請け負っていた仕事も代替されてしまうかもしれません。でも、私たちはそれを乗り越えて生まれ変わらないといけない。この社会のパラダイム転換に、AIとの新たな頑張りがカギとなりそうです。

――河口先生が1975年からずっとぶれずに今まで走ってこられたのはなぜなのでしょうか?

僕の場合は子どもの頃から2つのテーマを持ち続けていました。ひとつは親に買ってもらった世界地図。それを見ながら、大人になったらカラフルな鳥や蝶、花々を求めてアマゾンのような秘境に分け入っていく生物学者になりたいと夢見ていました。もうひとつは、出身地である種子島に宇宙センターができたこと。それを見て、「いつかは宇宙に行かなくちゃ」という気持ちになっていました。宇宙の螺旋構造と⽣命の進化の考察がグロースモデルの開発に繋がっていったんです。

――子どもの頃からの夢が、形を変えてグロースモデルになったのですね。

ただ、テーマはぶれなくてもかなり綱渡りの人生で、先ほどもお話した通りCGに触れることさえなかった可能性すらありました(笑)。大学院にはコンピュータがなかったので続けられないと思いましたが、通産省の研究所を紹介してもらい、幸運なことに大学時代と同じタイプのコンピュータで制作を続けられたり。過去のデータが入ったディスクをまとめて処分されてしまい、「人生終わりだ」と絶望したこともありましたが、たまたま寝かせておいたデータが残っていて、今再評価されています。たとえ綱渡りであっても、どうにか続けていくことが重要なんです。

未来の進化系の鳥『Bircco(バーコ)』の雛
▲未来の進化系の鳥『Bircco(バーコ)』の雛
『Cytolon(サイトロン)』2002年
▲『Cytolon(サイトロン)』2002年
『Eggy(エギー)』
◀︎『Eggy(エギー)』河口先生の作品世界の案内人であり、一緒に宇宙を探検する仲間。語源はEgg(卵)で、伸びたり縮んだりして進化していく。
『宇宙鳳凰Fecco(フェッコ)』2018年
▲『宇宙鳳凰Fecco(フェッコ)』2018年
ナレッジキャピタル開業5周年記念イベントのセンターを飾ったおよそ7mの作品。
リアルとデジタルの二重螺旋でもっとおもしろくなっていく

――河口先生は、ナレッジキャピタル主催のイノベーションアワードの審査委員長を長きにわたり務められています。ナレッジキャピタルには、今後どのようなことを期待されていますか?

関西以外にも、魅力をほかの地域に広げていってほしいと思います。AI翻訳もどんどん精度が上がっているので、これからは異なる言語の人同士でも自由にコミュニケーションが取れるようになりますよね。ナレッジキャピタルのアワードも⽇本を超えてインドやブラジル、メキシコ、ロンドン、パリと世界各地で開催すると、突然変異的に共進化が⽣まれるかもしれません。ナレッジキャピタルは2013年開業なので、今年でちょうど10周年。次の10年を考えると、AIを取り込むことで新陳代謝が上がるでしょう。アイデアを前向きに伸ばす場になることをさらに期待します。ナレッジキャピタルのコアバリューは「OMOSIROI」ですが、僕たちの感じる「おもしろい」と今の小中学生が大人になったときに感じるそれとはきっと違う。常に新鮮な驚きをもたらす「おもしろい」を提示し続けていくのが、ナレッジキャピタルの魅力ではないでしょうか。10年後にも新しい「おもしろい」を提示する存在になってほしいと思います。

――私たちから新しい「おもしろい」を発信していかなければならないということですね。

そうです。たとえばクラゲは5億年前から深海にいましたが、進化するなかで毒を持ったり、光ったりと、得意技を編み出すものたちが増えていきました。なかにはヒトデに進化して固くなったり、ウニに進化してトゲが生えたものも。適者⽣存のプロセスと特殊変化、ナレッジキャピタルもこれらの⽣物の⽣成化育のように自己進化していきましょう!それから、デジタルワールドだけでなくリアルワールドのことも考えて未来の都市計画に取り組むこと。いくらメタバースに天国のような世界が広がっていても、実際の⾃然環境が住むに適さないと意味ないじゃないですか(笑)。充実したリアルワールドと夢や理想が叶えられるデジタルワールド、その二重螺旋で10年後にもワクワク・ドキドキする世界を実現する未来組織になってほしいです。

――リアルとデジタルが表裏一体で進化する未来を想像すると、私たちもワクワクします。河口先生、ありがとうございました。

第10回イノベーションアワード授賞式
第10回イノベーションアワード授賞式の様子

第11回のイノベーションアワードは2024年3月20日(水・祝)に開催!
中高生ならではの発想に注目を!

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