World OMOSIROI Awardスペシャル・インタビュー
日常的に使われる「OMOSIROI」という言葉。英語にすれば「interest」や「fun」という意味であるが、その語源は「目の前(面)がパッと明るく(白く)なる感覚のこと」。
これまで見えなかったものに気づくよろこび、新しい発見や価値に出会ったときのよろこびを「OMOSIROI」と定義し、ユニークな活動で時代の先端を走る世界の「OMOSIROI」人を発掘し表彰する「World OMOSIROI Award」。
今回で5回目を迎えるこのアワードの選考委員である宇川直宏氏とゲルフリート・ストッカー氏のお二人に、アワードのこれまで/これからについて語っていただいた。
——第1回から選考委員を務めてこられたお二人は、このアワードの特徴は何だと思いますか?
宇川: 真っ先に言えるのは、他には類を見ないジャンルレス、ボーダレスなアワードだということですね。僕自身はこれまでに、文化庁メディア芸術祭審査委員をはじめとした表彰事業に関わってきました。それらは概ねデジタルコンテンツやメディアアートを対象とするもので、選考の基準や方針が共有しやすい。でもWorld OMOSIROI Awardはもう何が出てくるのかわからないので、選考段階から面白くて仕方がないです。
ストッカー: 全くその通りですね。私も専門はメディアアートですから、その分野の作品については自分の中で評価軸がある程度は定まっています。しかしWorld OMOSIROI Awardに関しては、選考の経緯の中で常に刺激を受け続けている感じです。このアワードではエンジニアからサイエンティスト、アーティスト、クラフトマン……と、普段はあまり触れることのない実にさまざまな活動をおこなう人について知ることができます。
宇川: 対象ジャンルがあまりにも広範なので、僕はこのアワードかつナレッジキャピタルのコアバリューである『OMOSIROI』という言葉を、自分なりに分析してみたんです。『OMOSIROI』とは、まず一つは「予定調和をブチ壊すもの!」何が起きるかわからない、つまり予測不能であるということですね。
——宇川さんらしい視点ですね。
宇川: そして日本語の「面白い」の逆の言葉は何かな?ということも、その流れで考えてみたんですよ。これ、普通は「面白くない」という否定形だと思いますよね。でもそれだと、ぜんぜん面白くない(笑)。実は、「楽しい」が、「面白い」の逆ではないかと。「楽しい」は予定調和的であり、その分だけ安定していて、どこか不自由なところがありますから。
ストッカー: 私は日本語のネイティブ・スピーカーではありませんので、宇川さんほど『OMOSIROI』という言葉を理解できていません。でも仰るところのニュアンスは、よくわかります。固定観念にとらわれず、かつ多様性や開放性が確保されている、という感じですよね。
宇川: さすがストッカーさん、鋭い。そこにあえてもう一つ、「怖いと気持ち悪いの親戚」というのも、『OMOSIROI』を感じる要素に、加えておきたいと思います。 「面白い」は「笑い」ともダイレクトにつながるものですが、「笑い」というのはトレンドに左右される要素が大きい。ついこないだまで笑っていたものが、すぐに笑えなくなる……ということは、しょっちゅうあります。「笑える」から「笑えない」への変化は、トレンドとの関わりで、かなりのスピードで動いていく。そうした「トレンドとの摩擦から生じる静電気」というか……ビリッとくる感じも、『OMOSIROI』には必要なものなのかと。
ストッカー: サイエンス・アートなどの作品には、怖いや気持ち悪いと言った要素が強く感じられるものがありますよね。 私自身がこのアワードの選考にあたって重視しているのは、新しさ、多様性があり、そして、その新しさを鍵にドアを開ける、さらにドアを開けるだけではなく押し込む力があるかどうかということ。そして「挑発的であるかどうか」、という点です。挑発的で、真に刺激的な作品や行為は、直感的にわかりますから。
——これまでの受賞作品で、特に印象に残ったものはありますか。
ストッカー: 基本的には全てが印象に残っていて、何か一つを選ぶのは難しいです。私はたまたま、強く推薦した作品がほとんど受賞していますし。
宇川: その点で僕はけっこう、プッシュした作品が選ばれなかったケースが多いです(笑)。強いて一つ選ぶとすれば、第1回の受賞者であるネルケ無方さんでしょうか。ドイツ人が仏教と出会って、出家する。そこからホームレス生活を経て、お寺の住職になる。そして住職なのに、著書が『日本人に「宗教」は要らない』。この本で彼は、日本人は無意識のうちに日常生活の中で「禅」の教えを実践しているから、宗教はいらないのだと主張しています。よく「日本人は無宗教だ」ということがネガティヴな文脈で語られますが、全く逆なんですね。彼のように、人生、もしくは自己同一性にまとわる問題を面白くしている人物が受賞者にいるだけで、World OMOSIROI Awardが示すところの『OMOSIROI』がいかなるものなのかが、感覚的にわかるのではないでしょうか。ネルケさんのような方が受賞できるアワードは、他にはない。第1回はこのアワードの行方を左右するものでしたから、彼の存在は大きいですよ。
ストッカー: 医療CGプロデューサーの瀬尾拡史さんや人工培養肉研究者の羽生雄毅さんなど、世界でもあまりない活動をしている。World OMOSIROI Awardの受賞者のジャンルは、芸術あり、科学あり、宗教まである。それらを「OMOSIROI」でつなぐ国際的にも目立つ存在だと思います。
——他のアワードは、回を重ねるにつれある程度の傾向が見えてくるものですよね。
宇川: World OMOSIROI Awardはその点でも、実にユニークです。どんなジャンルの作品が出てきても受け入れられるし、どんどんインターナショナルなものに、また知的であり、かつエンタメ性もあり…ということになっている。
ストッカー: 大きな傾向として、近年こうしたアワードでは、美的なもの=アートと理工系のもの=サイエンスが融合したものが増えてきた、という印象はあります。これらは、以前は異なる分野のものだと考えられていましたが…時代性というものでしょうね。バイオアートなどは、その最たるものです。
——今後、このアワードの価値をより高めていくためには、どういった要素が必要でしょうか。
ストッカー: このアワードは社会を変えていく力になる可能性を秘めていると思います。今世界で注目されている問題として「ジェンダー問題」があります。やはり様々なアワードの受章者にはまだまだ男性が多い状況です。選考委員も男性が多く、この問題を解決するにはある程度ジェンダーのバランスを意識する必要があります。このWorld OMOSIROI Awardも女性受賞者が増えてきましたが、まだ少ないですよね。
宇川: 確かに。今やジェンダーやLGBTに意識を向けるのは、インターナショナルな視点から、当たり前のことですからね。先ほどのバイオアートの話につながりますが、バイオアートはアート分野と理工学分野の融合ですよね。例えば日本では、美術系スクールの生徒には女性がたくさんいますから、今後World OMOSIROI Awardの網に引っかかるような人や作品も、どんどん出てくるのではないでしょうか。
ストッカー: アルス・エレクトロニカでは早くから、女性の作家を積極的に採り上げています。そうすることでムーブメントを作ることになり、結果として優れた女性作家が育ち、良質な作品も生まれてきます。第1回のWorld OMOSIROI Awardを受賞したメディア・アーティストのクリス・スグルーさんは、その後の教育者としてのご活躍も含め、イメージリーダー的な存在としてまだまだ注目されていいでしょう。
宇川: 第2回の受賞者の水中表現家の三木あいさんも、ジェンダーの枠を超えたユニークな表現者です。彼女のように、独自のスタイルで新たなジャンルを形成している方を表彰できるのも、本アワードの大きなポイントですから。今年の授賞式を観覧される方は、過去4回の受賞者もぜひチェックしてほしいですね。
ストッカー: 今後、このアワードから女性受賞者が輩出され、活躍することにより、ジェンダー問題解決に貢献する。それ以外にもこのアワードが、未来社会がよりよい方向に向かうためのトーチになると良いですよね。
——今後もどんなOMOSIROI人に焦点が当てられるか楽しみですね。
——本日はお忙しい中、ありがとうございました。
World OMOSIROI Award 選考委員紹介
宇川 直宏氏 ※左
(現“在”美術家 / DOMMUNE代表)
既成のファインアートと大衆文化の枠組みを抹消し、自由な表現活動を行っている。個人で立ち上げたライブストリーミングスタジオ兼チャンネル「DOMMUNE」は、開局と同時に記録的なビューアー数を叩き出し、国内外で話題を呼び続ける。京都造形芸術大学情報デザイン学科教授。
ゲルフリート・ストッカー ※右
(メディアアートの拠点「アルスエレクトロニカ」のアーティスティックディレクター)
オーストリアのリンツに拠点を置く、メディアアートの世界最高峰機関「アルスエレクトロニカ」の芸術監督として世界的に活躍。
World OMOSIROI Awardとは?
「未来を面白くする」を専攻基準に、国内外でOMSOIROI活動やアイデアを持つ「人」に焦点を当て、ナレッジキャピタルから世界にOMOSIROIの価値を発信する国際的なアワード。第5回のアワードは2019年3月23日(土)に開催される。今回から一般の方々もその模様を観覧できる、より開かれた授賞式となる。
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