ARS ELECTRONICA
in the KNOWLEDGE CAPITAL vol.07
InduSTORY 私たちの時代のモノづくり展
身の回りのものがインターネットに繋がり、個人では不可能だった3次元造形などのデジタルファブリケーションが身近になった今、“モノづくり”は単に企業が大量生産を通して一方的に製品を人々へ提供するサービスではなく、わたしたち一人ひとりが参加者となりコラボレーションを通して様々なアイデアを社会へ展開するプロセスへと変わりつつあります。
企画展「InduSTORY~私たちの時代のモノづくり展~」では、デザインと工学を高度に融合させたプロトタイプで未来の人工物のありかたを探求している「東京大学・山中俊治研究室 Prototyping & Design Laboratory」と、IoT技術を活用してモノと人との新しいコミュニケーション・デバイスを提案し続けている「neuroware」の2組のクリエイターグループによる作品群を紹介します。
この企画展で体験できる新しい“モノづくり”のstory(物語)が、いかに既存のindustry(産業)の製造過程や設計概念に変革をもたらし、これからの私たちの暮らしや社会を変えていくのか、未来のヒントを探します。
参加アーティスト
“ニューロウェア”は、「ちょっと未来のコミュニケーション体験」をつくりだすプロジェクトチーム。2010年秋頃から活動を開始。センサーやデータを用いて人やモノの関係を変えていく未来のデザインを、プロトタイプ+コンセプトムービーを通して伝えている。脳波を用いたコミュニケーションツール「necomimi」でPrix Ars Electronica 2013 Honorary Mentionに選出。
http://neurowear.com
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なかのかな neurowear
クリエーティブ・テクノロジスト/コミュニケーション・プランナー
インターネット広告会社勤務を経て2009年より(株)電通。 AR(拡張現実)と位置情報を利用したクーポンアプリ「iButterfly」など、テクノロジーを用いたコミュニケーション体験を企画している。
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加賀谷友典 neurowear
ディレクター / プランナー
フリーのプランナーとしてデジタルネットワーク領域で多数のスタートアッププロジェクトに参加。 新規事業開発における調査・コンセプトプランニング、チームマネジメントが専門。 主な事例としては坂本龍一インスタレーション作品「windVibe」「GEOCOSMOS」など。
© Photo by Shinsuke Yasui
mononome(2014)
neurowear × Aizu Laboratory, Inc.
無生物であるモノが動くとき、それは人と関わっているとき。モノの感情を可視化するために、動きを検知するセンサーに表情豊かな「目」をつけました。mononome(もののめ)は、モノと人のためのコミュニケーションツール。食べ過ぎると叱ってくれるお菓子入れ、掃除をしないと寂しがる掃除機、時間通りに取り出すと喜ぶ薬箱など、家具や家電に貼りつけることでモノとのコミュニケーションを実現します。表情をもったモノと生活し、その関係を記録することでモノは人の家族や友人に近い存在になっていきます。
© Photo by Shinsuke Yasui
COTOREES(2016)
neurowear × tsug.LLC
人と機械の関わり方として近い将来、キーボードやタッチパネルだけではなく音声を使ったやりとりが増えていくと考えられています。COTOREESは、あなたの声で働くかわいい鳥型コンピューター。意味はわかっていないけれど、人の言葉をマネしておしゃべりらしいことができる唯一の生き物「鳥」から着想を得て作られています。うんと賢くはないけれど、話しかけるだけで誰にでも使えるペットのようなコンピューター。まるでアプリが現実世界に出てきたかのように「天気予報」「翻訳」「辞書」などキャラクター毎に異なる機能をもっています。
Onigilin (2016)
neurowear × STARRYWORKS inc.
Onigilinは、初心者のための瞑想サポートデバイス。瞑想で大切とされる3つの要素(調身·調息·調心)をテクノロジーとデザインによって実践しやすくしてくれます。生体信号から瞑想度を計測し、本体を握るとあなたの体の状況に合わせて、音や感触が変化します。オニギリのように持ち運びが簡単なので、いつでも気軽に心と頭をリフレッシュできます。次世代メンタルトレーニングとしてシリコンバレーを中心に企業などで活用されているマインドフルネス瞑想を身近に体験できるデバイスです。
日本をけん引するデザインエンジニアである山中俊治教授を筆頭に、ロボティクスや宇宙機などの先端領域や先端製造技術がもたらす新しいものづくり分野へデザインの導入を試み、プロトタイプを制作し、未来の人工物のありかたを、デザイン・エンジニアリングの両面から研究している。
http://www.design-lab.iis.u-tokyo.ac.jp/
山中 俊治教授
© Yukio Shimizu
Flagella (2009)
山中俊治, 神山友輔, 村松 充,
慶應義塾大学 SFC 山中デザイン研究室
生命体の中で唯一回転運動する器官「鞭毛(べんもう) Flagella 」から名付けられたこのロボットは、一見柔らかいものがくねくねと身をよじらせているように見えますが、実は緩やかなカーブをもつ管状の剛体を数カ所でねじれるように回転させることで、しなやかな動きを実現しています。互いの管がぶつからないような制御設計が、サーボモーターのシンプルな回転制御をまるで知性のある生き物のように感じさせます。
製作協力:株式会社日南
© Yasushi Kato
Apostroph (2014)
村松 充, Manfred Hild (所属:Beuth Hochschule für Technik Berlin) , 山中俊治
東京大学 山中俊治研究室 Prototyping & Design Laboratory
ゆるやかなアーチをえがく骨格と2つの回転する関節を持つ構造体。関節には、外から加えられる力に反発するようプログラムされたモーターが埋め込まれていますが、全体を制御する仕組みを持たず、重力に逆らって自身の体を持ち上げようとひたすら前後にもがき続けます。ときには橋のように大きなカーブをえがき、ときには体を丸めて転がりながら、自ら安定姿勢を探し続ける姿は、エラーのない完璧な制御を求める既存のロボット設計思想とは異なるアプローチから、持続可能な運動体の新しい可能性を教えてくれます。
製作協力:株式会社アスペクト
写真左上・右上:© Yasushi Kato
READY TO CRAWL (2015)
杉原 寛, 山中俊治
東京大学 山中俊治研究室 Prototyping & Design Laboratory
3Dプリントで作られた生物型の機械群。一般に3Dプリントは造形精度が低く、機械のような複雑な構造体の製造には向かないと言われてきました。しかし本作品では、複雑曲面や柔軟構造といった3Dプリントの特色を生かすことで、むしろ単純な機構から「滑らか」で「柔らかい」生き物のような動きを実現しています。
各作品はモーターを除く全てのパーツを連結した状態でプリントすることで、生物のように完成した姿で産まれてきます。ネジや釘・モーター・素材といった既存の要素の組み合わせから機械を作るのではなく、目指す「動きのデザイン」を基にそれを実現できる形を造形する、という、従来の設計概念を根本から逆転させた、エンジニアリングの未来を予見させる作品です。
© Yasushi Kato
構造触感 (2015)
谷川聡志(所属:パナソニック株式会社)、東京大学 山中俊治研究室 Prototyping & Design Laboratory
従来のものづくりでは、触り心地は素材によって決まるものでしたが、3Dプリンターによる複雑な構造を用いることで、同じ素材を使いながら様々な触感を実現できるようになりました。“構造触感”と呼ばれるこの作品群はその実験から生まれたものです。この試みのなかから、READY TO CRAWLのトカゲに繋がる発見が生まれました。
オーストリア・リンツに拠点を置く、メディアアートの世界最高峰機関。毎年9月にアート・テクノロジー・社会をテーマに行われる「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」の他、美術館・科学館としての「アルスエレクトロニカ・センター」、メディアアートの最先端コンペティションである「プリ・アルスエレクトロニカ」、R&D機関である「フューチャーラボ」の4部門があり、日本からも多くのアーティストが参加している。
Ars Electronica : http://www.aec.at/
photo: Nicolas Ferrando,Lois Lammerhuber
スペシャルプログラム ゲスト
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マーティン・ホンツィック
メディアアートの祭典として名高いアルスエレクトロニカ・フェスティバルのディレクター。タバコ工場、ショッピングモール、教会など毎年リンツの街の様々な場所にスポットを当て、街とひとを巻き込みながら「アート・テクノロジー・社会」のフェスティバルを作り上げる。
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高橋 祥子
アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ所属。プロダクトプランナー。産業界にて自動車、二足歩行ロボットの企画に関わった後、アルスエレクトロニカにて新技術の社会実装 プロジェクトを推進している。