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受賞作品

interview

構造設計データを共有し
世界に安全な建物を広めたい

株式会社U'plan/東京事務所所長 尾崎光、
設計部構造設計課 吉川晃平

過去に造られた建築物の構造設計データがオンラインのプラットフォーム「STRUCTURE BANK(ストラクチャーバンク)」でダウンロードできるようになる。開発したのは、建築物の構造設計や耐震診断を行う一級建築士事務所のU'plan。構造設計者不足の問題を解消し、安全性の高い建物を世界に広めるため、技術が閉じられてきた建築業界に切り込んでいく。

01構造設計者の不足問題を設計データのリユースで解消へ

――構造設計とはなんですか?
間取りや設備などの設計とは異なり、建物の基礎や骨組みといった構造体の設計のことで、建物の強度を高め、地震や台風といった災害から人を守るために欠かせない工程です。
建物を建てるときは、まず建築士が間取りやデザインを図面におこし、その後、私たち構造設計者へ図面を渡して、災害に耐えられる建物になるかどうかを計算しています。計算の結果、安全性が基準に満たない場合は、補強部材の追加や間取りの変更が必要になることもあります。
――開発にいたった背景は?
一つは、構造設計者の不足です。2005年の耐震偽装事件以来、構造設計のニーズは増加していますが、構造設計一級建築士*は建設業従事者全体の0.2%しかいません。
また、先に述べたように、一棟ごとに建築士と構造設計者が紙ベースで何度も打ち合わせをしながら設計を行うので、非常に時間がかかります。やりとりがアナログな上に両者で意見がぶつかることも多く、手間と手戻りが多いのです。
年々人口減少が進んでいる日本では新築住宅のニーズが低下しているため、今後、建設業界は海外への展開を視野に入れることになるでしょう。しかし、構造設計者不足が原因で事業の拡大が難しくなったり、品質が低下したりする恐れがあります。
そこで、これまで3000棟以上の構造設計に携わってきた当社がストックしている設計データを、オンラインで提供しようと考えたのです。
*構造設計一級建築士とは…構造設計に従事する建築士のみが保有できる上位資格
――STRUCTURE BANKの使い方は?
ハウスメーカーや工務店の建築士が、土地や施主の希望に合致した構造設計データをダウンロードし、そのデータをもとに間取りやデザインを考えます。つまり、間取りを決めてから構造計算をしていたこれまでとは逆の手順で建築設計を行うことになります。
現在は、オーソドックスな構造設計データを20件選んで提供しています。もし希望に合致するデータがない場合は、カスタマイズ依頼をすることで施主のオーダーにぴったりのデータに修正することができます。こうして使っていくほどデータが派生して蓄積され、いずれは合致しないデータがなくなると考えています。

02閉じた世界を拓き、職人気質の業界に新風を吹き込む

――STRUCTURE BANKを使うことで、どのような効果が得られますか?
構造設計が完成した状態で建築設計がスタートするので、一棟の構造設計にかかるコストを5分の1程度にまで削減でき、同時に技術者不足の問題を解消できます。また、建築士と構造設計者とのやりとりが不要になり、大幅な工数削減にもつながります。
現在は、ハウスメーカーに試験的に使ってもらっています。使いはじめた頃は、決められた骨組みから設計しなければならないことに戸惑う声もありました。しかし使っていくうちに、この構造設計さえ守れば建物の安全性が確保できるので、後々、構造計算上の不具合で間取りを変更する必要がなく、自由にデザインできる便利さを体感してもらえたようです。さらに、これまでは設計が難しいと思われていた建築物の設計にも、過去の構造設計から着想を得てチャレンジすることもできます。業界全体の安全な技術力向上につながるでしょう。
――課題はありますか?
構造設計者は、独自の技術にプライドを持つ職人気質(かたぎ)の方が多いため、その技術力は外に向かって閉じられています。設計データを共有するSTRUCTURE BANKに良い顔をしない方もいるでしょう。しかし、構造設計者の本分は、安全な建物を造ることにあります。そのためには安全性の担保された設計データを共有し活用することが近道だと考えています。また、プラットフォームにのせれば自らの技術力をより多くの人に知ってもらうことにもつながります。今後、実際にSTRUCTURE BANKを使って建物を建てて実績を積むことで、構造設計者の理解を得られるはず、と期待しています。

03日本の優れた構造設計技術を共有し、建築業界の活性化へつなげる

――今後の予定は?
ハウスメーカーや不動産関連企業をターゲットに、新規事業として7月のリリースを予定しています。それまでに説明会で理解を得て、多くの方に試用してもらい、改良を重ねていきます。
――STRUCTURE BANKを通じて描く未来は?
私たちは建築物が好きです。しかし震災などの災害時には、人を傷つける凶器のように見られてしまう。それが辛いんです。災害大国である日本には、高い耐震基準を満たす建物を造る優れた技術があります。この誇れる技術を世界中に広め、地道に、人を傷つけない建物を増やしていきたいです。
そのためには、この技術力を一つの会社だけが独占するのではなく、業界全体で共有し、高め合うことが必要ではないでしょうか。そのベースを提供することで、日本中の会社がノウハウを得て、安全性の高い建物を造ることができます。 今後新しい建築基準や技術が生まれたとしても、どの技術者も即座に対応できるようになるはず。これまで閉じられていた業界に切り込み、技術をオープンにし、業界を活性化したいです。STRUCTURE BANKがその先鋒を担ってくれると思います。
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