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受賞作品

interview

大型将棋と天円地方の思想
〜初期平安京の復原 〜

大阪電気通信大学 デジタルゲーム学科
高見研究室 / 教授 高見友幸

平安京の形は長方形だというのが定説だが、将棋の歴史から研究を重ねると、将棋と都城は深い関係があり、造営当初の平安京は1辺1500丈(1丈=約3m)の正方形の都だということがわかった。平安京の中央に位置する大極殿院も1辺40丈の正方形。正方形の階層構造で地の中心を決めたのは、天空の星を地上の都に写すという思想から。その形を盤に再現したものが将棋である。

01数字の符合によって発見した平安京の形

――仮設を立てるにいたった経緯を教えてください
将棋は古くから日本に伝わる遊戯ですが、その起源は不明です。しかし、平安時代から鎌倉時代に、現代将棋よりも駒数が多い大型将棋が存在していたことがわかっています。例えば摩訶大将棋は横が19マス、大大将棋は横が17マスで、駒の動きと名称が陰陽五行思想に則って決められています。調べていくうちに、将棋盤のマス目数が平安京の条坊の数と一致していることに気づきました。そこで数字を読み解いていった結果、初期の平安京は正方形だったという仮設に結びつき、それを解明していったのです。
――平安京の遺跡では南北に長い長方形ですが…
現在発掘されている遺跡は、10世紀前半の「延喜式」の記述とほぼ一致しています。しかしこの遺跡は平安後期のもので、造営当初の平安京とは違うのではないかと考えました。考古学的な文献にそういった記載はなく、発掘調査でも出てきていませんが、平安京が正方形だという仮設に数字がぴったり合ったのです。平安京の北端は一条大路、南端は八条大路で、その距離は1500丈。東西は東京極大路から西京極大路までで、距離は1500丈。このようにぴったりと数字が合うのは計算されたものにほかならないのです。
――都を造るための計算とはどういうことでしょうか
都を造る(都城)ときの理論モデルは中国の「周礼」という文献です。全6巻、7000字ほどのうち250字くらいが区画や道路幅など、都城のルール。このなかに「方9里」とあります。方が正方形か長方形かはわかりませんが、1辺の長さだとすると実際の遺跡にはあてはまらない、だから適当に書かれたものだと考えられていました。でも、様々な論文から、藤原京、平城京、平安京も9里という数字にこだわっているということがわかりました。9里というのが1辺の長さではなく、周囲の長さだと考えると辻褄が合うのです。

現在発掘されている大極殿は42.4丈ですが、天皇がおられる、都の中心となる建物のサイズに端数が出ることはありえません。平城宮や藤原宮でも必ず端数なしの完数です。これが謎でしたが、我々は平安京の大極殿はそれまでと測る物差しが違うと考えました。周礼の思想に数字を合わせるために小さい物差しを作った、これをx尺として計算すると、大極殿は平安京の中心にきます。詳しい検証については、3月に発表する論文に記しています。

02街の大きさが変わると将棋の盤も変わる

――なぜ将棋と関係があるのでしょうか。
大大将棋、摩訶大将棋共に駒の初期配置を盤のマス目の交点に並べると、平安京の東西にあたる幅に収まります。しかし後に摩訶大将棋は、交点ではなくマスの中におくようになります。同時代の将棋において、この変化は不自然です。しかし、盤とリンクしている平安京の広さが変わったと考えれば辻褄が合うのです。町が南北方向に1マス分拡張されたため、交点に駒をおくと将棋盤は1路だけ余る。マスのなかにおくことにすれば、盤のなかにきちんと収めることができるのです。
――なぜそこまで厳密に街区と将棋を合わせる必要があるのでしょうか。
都の大きさが変わったからといって将棋盤まで変える必要がない、というのは現代の考え方で、古代はどうもそうではなかった。将棋盤は都の条坊と連動しなければならない理由があったのです。そこには陰陽五行の思想があり、呪術(科学じゃないという意味でこう呼ぶ)と融合したものだからです。
陰陽道の根幹思想のなかでもひときわ重要な考えに、宇宙観を現す「天円地方」というものがあります。天は円形で大地は方形という考え方で、位置をとても重要視します。中国では国を治める者は天に選ばれた天子として、天の中心である北極星に相対する地の中心を決めて、周礼にのっとって都を作るわけです。その周礼を忠実に再現しているのが日本の都なのです。

03将棋は天とつながり、政(まつりごと)の安寧を祈るもの

――将棋は遊戯ではなかったのですね。
私も最初は、将棋は遊戯だとして調べていましたが、どうもそうではなかった。いろんな数字が、将棋と平安京が絡まっていることを教えてくれたのです。ただ、将棋が呪術だといっても遊戯であることに違いありません。将棋は神様に奉納されるわけですから、むしろ十分に面白い遊戯である必要があります。
最近までの研究では、遊戯である将棋は小将棋が先にあって大型将棋に発展したと考えられていました。ところが将棋は陰陽五行と干支十二支にのっとって設計された呪術だとすると、駒の数はたくさん必要で大型将棋にならざるをえない。ここから摩訶大将棋が将棋の起源だという考えにいたりました。

古文書に、天変地異を鎮めるために天皇の御前で将棋をさしたと書かれています。都自体を碁盤の目にすることによって天と相対させ、碁盤の上で駒を動かすことは天皇が天意を知るためであり、天に遊戯をお供えするという意味があったのかもしれません。
将棋のことを調べていたら、思わぬところで数字の一致が発見できました。これからどのように検証されていくかが楽しみです。
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