人口こそ少ないけれど、45ヶ国以上もの国籍の人々が、家や店舗、レストラン、セルビア正教会まである地下の町クーバー・ピディで暮らしています。
オーストラリア砂漠の中心部に位置し、わずかな数の家屋や建物が、砂漠地帯の高温に晒されながらまばらに存在しています。地上よりは気温も下がって過ごしやすくなる地下数メートルのところに、一風変わったライフスタイルの町、クーバー・ピディの大部分が収まっているのです。
砂漠のトカゲのような住環境ですが、ここの住民たちはトカゲよりずっと快適に暮らしています。かつては辺り一面鉱山であった土地に、居心地の良いホテルやアパート、病院やスーパーマーケットなどの実用的な建物をつくることで、暮らしやすさと大いなる特異性をあわせ持った地下の町が完成したというわけです。別名「世界のオパールの首都」とも呼ばれるクーバー・ピディという地名をひもとくと、この砂漠に昔住んでいたアボリジニの存在が浮かび上がってきます。彼らは新参者をkupa piti(クパ・ピティ)、「穴の中の白人」と呼んだからです。
クーバー・ピディは実際、20世紀初頭、南オーストラリア州のアデレードから約1,000キロメートル離れたこの土地で偶然に最初のオパールが発見されたために、白人がつくった穴の町です。
厳密にいえば、この町ができたのは1915年。なので、5年前の2015年にクーバー・ピディは100周年記念を迎えました。太陽と熱に焼かれた、この赤味がかった大地をうまく手なずけて暮らす術を会得してきた共同体の人々は、紫から緑、青から赤、黄色からオレンジの無数の色調を放ち、ジュエリーや装飾品に使われる玉虫色のこの宝石を豊富に産出する底土の恩恵にあずかったのですね。
そして現代、クーバー・ピディは一風変わった観光地となり、ここでは砂漠地帯の魅力に包まれながら地中のホテルやホステルに滞在するという、なんともオリジナリティ豊かな滞在を経験することができます。何らかの事情があって仮にここに引っ越すことになっても、家(現地では「ダッグアウト=地下壕」と呼ばれます)、教会、ホテル、ショップ、博物館など必要なものはすべて揃っています。クーバー・ピディに足りないものは、自生植物ぐらいのもの。緑地面積はご想像どおりごくわずかです。植物がなさすぎる状態を改善しようと考えた結果生まれたのが、実際の道路と「大通り」の間にある、古い鉄クズを集めてつくられたこの土地最初の、そして唯一の樹です。
このような、多くの人間にはなかなか理解しがたいライフスタイルを詳しく教えてくれるのがクーバー・ピディにある博物館で、各種パネルや解説、短い動画を使って地下の生活様式の特色を紹介しています。
せっかくオーストラリアの底土の中心部まで行くならば、1970年代の半ばに設立された最初の英国教会のカタコンベ地下教会はもちろん、その近くにある中国の万里の長城を凌ぐ世界最長の人工建造物であるディンゴ・フェンスも、ぜひ見てほしいところです。
ディンゴ・フェンスというのは威容を誇るお城の要塞ではなく、ディンゴ(オーストラリアの野犬)を寄せ付けないためのフェンス。6,000㎞という堂々たる長さを誇り、防御用の柵としては世界最大です。
あたたかい茶系の色調を背景にひときわ目立つビッグ・ウィンチは、過酷な鉱山労働のシンボルとなっているウィンチ(巻き上げ機)。ここは地元の人々が「バーズ・アイ(鳥の目)」と呼ぶいわゆる絶景スポットで、街の上空から360度のパノラマ風景を楽しめます。
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