シドニーの街にとって、これは大変傷ましい事故であり、とても衝撃的な出来事です。
事故が起きたのは、近隣のビーチに何千人ものスイマーが集まる恒例のチャリティ行事マレー・ローズ・マラバー・マジック・オーシャン・スイム・イベントの数日前のことで、さすがにこのイベントは延期されました。
今回の出来事は本当に悲しいですが、ただ知っておいてほしいのは、こうした悲惨な事故を未然に防ぐためにいつも対策が講じられているということです。
シャークアタックの発生件数は、過去20年間で大幅に減少しました。政府が防止に積極的に取り組んできたからです。
オーストラリア政府はここ数年、サメの動きを追跡する探知機やサメを遠ざけるソナーに巨額の費用を投じてきました。特に夏の数か月間スイマーやサーファーが多くなる湾内にサメが入れないよう、生態系に配慮した網も設置されています。
ハイシーズンには水辺を監視するヘリコプターが飛んでいますし、アプリをダウンロードしてサメの最新目撃情報をチェックしたり、ユーザーから報告したりできるようにもなっています。
そのうえ訓練を受けたライフガードもいて、サメ発見の報告があれば遊泳エリアやビーチで迅速に避難誘導に当たってくれます。
シャークアタックには、最新技術を導入しながらも生態系に配慮した対策が実施されています。
特にサメ除けのソナーについては、サメの口周辺のセンサーを刺激する電磁波を用いてサメに不快感を与える方法を採用しています。有効な手法ではありますが、100%確実ということはありません。生き物というものは往々にして予測できない行動をするものなのです。
それでも、10年ほど前のオーストラリア政府のやり方よりはずっとマシです。当時、政府はワナと網を使って多くのサメを処分することを決定しましたが、動物保護団体のみならず、大部分のオーストラリア人もこれには反対しました。
サメは生態系にとっても重要な動物であり、全体的に見れば僅かな種しか残されていないことを忘れてはいけません。
針に餌を付けてサメをおびき寄せるような方法は百害あって一利なし、それよりも網でバリアを作るべき、と専門家たちは主張したものです。
友人のサーファーによると、オーストラリアのある企業が、西オーストラリア大学海洋研究所の研究者たちの協力を得て画期的な製品を開発したそうです。科学の飛躍的な進歩とサメの行動観察から生まれたこのウェットスーツを着れば、サメからは「見えなく」なるのだとか。
サメには「見えない」この製品は、サメが色覚異常であるという発見から生まれたものです。カモフラージュカラーである青と白のウェットスーツを着たダイバーやサーファーは、波の色に紛れて見分けが付かなくなるのです。
この、波を思わせるあざやかな白と濃い青のストライプのウェットスーツを着れば、シャークアタックの危険性から免れることができます。
オーストラリアのサーファーたちは、何十年も前からサメと「共存」してきました。サメは人間を恐がるので、あっちからすれば我々こそ「イヤ」な存在であるというのも、もっともな話です。
何度かサメに遭遇したことがあるサーファーの友達から聞いた話では、サメが人間を襲うという認識は間違っているのだそうです。サメが追う標的は、人間ではなくアザラシ。シャークアタックはほとんどの場合、サメがスイマーあるいはサーファーを見て、自分の獲物であるアザラシだと思い込んだ結果というわけです。
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