• 2018.05.22
  • マンハッタンのダウンタウンにいる雄牛の役割
ニューヨークシティに来ると、必ず訪れる場所やランドマークがいくつかあります。そこに行かないと、この素晴らしいメトロポリスの大切な何かを見落としてしまったような気持ちになるからです。ウォールストリートもそんな場所のひとつです。

NYSE(ニューヨーク証券取引所)があるウォールストリートは、アメリカの金融の中心地です。
良い意味でも悪い意味でも有名なこの地域と、ボウリング・グリーンの広場を飾る巨大なチャージング・ブル(突撃する雄牛)の像とを一体として考えてしまうことは間違いありません。ブロードウェイの南端の石畳に立つ巨大な像は、80年代の終わりからずっとここにあるのですから。



雄牛の像は株式相場の上昇トレンドを象徴しています。
ブル(雄牛)とベア(熊)は相場の上昇局面と下落局面を意味する比喩として実際使われています。ベアは株価の下落局面を示し、テクニカルチャートに基づけば資金引き上げの可能性があります。
一方、ブルは上昇相場のことで強さとパワーの象徴です。



当初はニューヨーク市がアメリカ国民の力強さのシンボルとして、この像の制作を依頼したものと思われていました。ですから、この巨大な雄牛の銅像の設置は市庁舎が主導して計画したものではなく、像の制作・設置の裏にイタリア出身の彫刻家、ディ・モディカ氏の存在があることが判明したときは驚きを呼びました。この像には金融の未来に対するアメリカ人の前向きな姿勢が率直に表現されていて、必ず明るい気分になります。
ディ・モディカ氏は1989年12月のある夜、何の許可も取らず、証券取引所前の歩道に一夜のうちにこの像を設置しました。
像の大きさ(重さ約4,000kg、高さ約4m、長さ5m超)を考えれば、当然無視できるわけもなく、ビルの管理人たちは自分たちの知らないうちにどうやって設置されたのかを突き止めようとしました。しかし、市庁舎がこの出来事への一切の関与を否定したため、この像は間もなく芸術的ジョークと見なされるようになりました。



像の起源についての調査が進むうちに、沈着さと厚かましさを併せもったひとりの芸術家が彫刻家としての自分の活動を載せたパンフレットを配布しながら、チャージング・ブルのすぐ横でこの像は自分の作品だと言い始めました。
後に判明したことですが、この芸術作品は荷台付きのトラックで目的地まで運ばれ、警官のパトロールが通り過ぎ、次のパトロールが来るまでの8分の間に木の箱から取り出され、路上の今ある場所に設置されたそうです。
とはいえ、この像は誰かが注文したものではないので撤去されることが決まりました。ところが、警官がこの芸術的な銅像を撤去し、違法駐車の車と同じように押収物の保管倉庫へ移そうとしてやって来ると、抗議者の一団が像のそばから現れ公然と阻止したのです。人々がピカピカの力強い巨大な雄牛に立ちどころに愛着を覚えるようになったおかげで、ディ・モディカ氏の活動は奇跡的に功を奏したというわけです。公的な抗議運動がたくさん繰り広げられ、この騒ぎによってニューヨーク市公園レクリエーション局はボウリング・グリーンの敷地内への一時的な設置を認めざるをえなくなりました。像が最初に置かれていた場所では広く受け入れられるには困難でしたし、周りの景色と調和しないように思われたからです。
その後、チャージング・ブルはビッグアップル(ニューヨークシティの愛称)の歴史ある観光名所と同等か、ひょっとしたらそれ以上の評判を得るまでになりました。何千人もの観光客が像を触りにやって来て(幸運を呼ぶとして不適切な場所を触る人もたくさんいます)、映画スターのような扱いで一緒に写真を撮る人もいます。また、多くの映画のマンハッタンのシーンに登場し、紛れもなくウォール街のシンボルとなっています。
雄牛はこの街にすっかり溶け込んでいるのです!


特派員

  • クラウディア・ ディアス
  • 年齢午(うま)
  • 性別
  • 職業ニューヨーク大学教授

私は、ニューヨーク大学でスペイン文学と演劇の教授をしていますが、もともとはカリフォルニア出身です。余暇には長い時間散歩をするのが好きです。ニューヨークでは常になにか新しいものをあちこちで見つけることができるので、それが本当に大好きです。この街のお気に入りの季節は秋です。秋にはセントラル・パークの紅葉が素晴らしく、私の大好きなハロウィーンもあるからです。
私のブログを通してみなさんにニューヨーク市と、私の住むブルックリンに興味を持っていただきたいと思います。また、ここに住む人間の目から見たビッグアップルについての新たな視点を紹介したいと思います。

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