ロンドン市内やイギリスの他の大都市には、おしゃれな「英国式パブ」のバーがたくさんあります。店内には大抵、木製の長いカウンターがあって、床にはヴィンテージ柄のじゅうたんか、きしんだ木の板が敷き詰められ、いろんな種類の生ビールがそろっていて、火の入った本物の暖炉が友好的で居心地のよい空間を醸し出しています。
主役のビール
観光客もこの国に住む外国人もイギリスの「パブ文化」にとても愛着を感じるのは、パブがこの国でビールを飲む場所を探すときに思い描いたとおりの場所だからです。
こういうパブの中には、夜にカラオケを歌える日があるところもあって、何杯か飲んだ後には、店内で一番内気な人でさえ一緒に歌い始めます。
英国式パブ
大半の会社員は、仕事帰りにビールを飲みにパブへ寄って同僚と親睦を深めるので、みんながオフィスを出る6時頃は、パブが一番混み合う時間帯です。
多くのイギリス人は「飲酒文化」を国民性の一部として誇りに思っていて、「仕事帰りに飲む」習慣を大事にしています。
確かに、英国パブ特有の居心地のいい、くつろいだ雰囲気は世界中で羨望の的になっていて、このお祭り気分をまねようとする店はごまんとあります。そしてもちろん、飲酒はイギリス独自の現象ではありません。
しかし、イギリスの飲酒文化には他のヨーロッパ諸国では通常みられない、ある側面があります。
それは、たくさん飲むことと、注文するたびに必ず1人2杯以上オーダーすることへの、とにかく強い衝動です。
私は体によい食べ物が好きなので健康雑誌をよく読みますが、最近読んだ英国公衆衛生機関が実施した研究に関する記事は、他のヨーロッパ諸国では肝臓病が減少しているのに、イギリスではアルコール飲料の消費量増加が肝臓病を招いていると警告していました。またこの他にも、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジが昨年実施したイギリスにおける実際のアルコール摂取量に関する研究によると、アルコールの販売量と消費者が飲んだことを認めている量はかなり食い違っていることが判明しました。
研究者たちは、大部分の人が実際のアルコール摂取量を過小評価していることを突きとめたのです。
若いときは特に、多くの人が暴飲(1日の推奨摂取量2ユニットを大幅に上回る飲酒)を習慣化しています。
ワインやチーズのテイスティングからパブ巡り(特定の晩にパブをはしごする)まで、若者のイベントの大半は通常、暴飲がからんでいて、まるで飲酒の主目的は酔っ払うことであるかのようですが、悪い結果をもたらす可能性があるというだけではすまないかもしれません。
実際、出かける前の飲酒、飲酒ゲーム、アルコールをすばやく摂取できるようにするグッズの利用など、早く酔っ払うために行われている慣習はいくつかあるのです。
しかし、どんなことでも度が過ぎれば抑制する動きが出るのが普通です。イギリス国内でのアルコールの販売、購入、消費を規制する法律は、滑稽の域に達するほど厳格なこともよくあります。
超低価格なアルコール飲料の販売禁止を決めたイングランドとウェールズでは、飲酒量に歯止めをかけることに成功するかもしれませんが、その一方、他の規範については問題そのものを解決するためというより、政府がイニシアチブを取って問題解決する姿を見せようとするために設定されているような感じがします。
イギリスでは、アルコールは1日の決められた時間帯にしか販売できませんが(特別な許可を得ているお店でなければ)、この規制がどの程度、飲酒の抑制につながっているかははっきりしません。
アルコール飲料の摂取を低減・禁止するための新たな法律の導入を知るには、20世紀の最初の数十年にさかのぼる必要があります。
なお、最近はアルコールの暴飲を制限するためのキャンペーンもあり、昨年行われた、いわゆる「しらふの10月」キャンペーンは、イギリス人に10月の31日間を禁酒月間にし、がん患者支援のために募金するよう働きかけるものでした。
このキャンペーンは、イギリスのアルコール摂取量に対する反省心を高める機会となりました。
とはいえ、今回ご紹介したキャンペーンでも明らかなように、お酒を飲むことはあまりに日常的過ぎるので、飲まないことが英雄的行為とみなされ始めています。
実際、キャンペーンの参加者は「しらふのヒーロー」と呼ばれ、「素晴らしい行い」をしたと言い伝えられているのです。
パブにはビールがずらり