ところが、イギリスの首都では最近、レンゾ・ピアノ氏が設計したザ・シャードのようなタワービルとは対照的な、高さではなく深さへの追求に注目が集まっています。
世界最古の地下鉄だけでは物足りないかのように、この街は今、地下層を再開発し、地下生活という新たなトレンドを生み出しています。
レストラン、ショップ、専用のアートスペースが街に新たな「アンダーグラウンド」ライフをもたらしているのです。
フォーリーストリートのそばには、鉄製の階段を下っていくとビクトリア朝時代の男性用トイレ跡地に通じる場所があります。
このスペースは現在、質実剛健かつ洗練されたおしゃれなカフェ・レストランになっています。
朝食やコーヒーを楽しむのにぴったりの場所で、大英博物館から歩いて行ける距離にあります。
これ以外のロンドンの魅力的な地下スペースと言えば、古くからあるテムズトンネルです。川底に掘られた世界初の水底トンネルで1844年に運用が開始されました。
当初は歩行者と馬車のための地下通路として利用されていましたが、その後、未来の地下鉄網のパイオニアとなるロンドンの鉄道会社に売却されました。
このトンネルは150年間も閉鎖されていましたが、最近再オープンを果たし、ガイドツアーで見学できるようになりました。
ストリートアートで埋め尽くされたこの場所は、コンサートやショーの会場にもなっていて、水深は23mちょうどです。
ロンドンの地下
ロンドンの地下にはアート、ファッション、家具をそろえたショップもあります。
場所はイースト・ロンドンエリアの地下です。
地元のデザイン事務所が設計したザ・チョークルームというお店で、地下深い場所をほぼリニューアルした薄暗い店内には、家具が中心に配置され、アンティークやサルベージ品、ブランドものの服やアクセサリーが並びます。 他のショップの真下に位置し、最も変わった製品を売っているこのお店には、背もたれのない古めかしいチェスターフィールドソファや、ドレスが1着しか入らない洋服たんす、かつてブタを運ぶのに使われた古い木製の収納箱などが陳列されています。
太陽の光が差し込まない場所でもうひとつご紹介したいのは、世界一の来場者数を誇るモダンアート美術館、テート・モダンが運営するザ・タンクスという近年オープンしたアート専用スペースです。
テート・モダンは占有スペースをぜいたくに使用した展示で既に際立っていますが、その地下に拡張されたザ・タンクスは、地中に造られた前世紀のオイルタンク室と貯水室を利用しています。
実際、このスペースはテート・モダンビルのレベル0に位置していて、コネクティング・ルームはパフォーマンスアートに利用されていますが、大抵無料で入場できます。
テート・モダンが運営するザ・タンクス
ロンドンには地下をパフォーマンスや会合の場として利用する毎年恒例のイベントがあります。
ウォータールー駅の地下ギャラリーで毎年1月~3月に行われるヴォルト・フェスティバルでは60ものショーが用意されていて、ダンス、音楽、サーカス、 実験演劇、その他にもさまざまなパフォーマンスが6週間にわたり毎週およそ10公演が披露されます。
ネオンが灯ったトンネルとグラフィックアートが描かれた壁に囲まれたこのスペースは、限界も境界もない、ロンドンで最もイノベーティブでクリエイティブな場所のひとつです。
Growing Underground(地下栽培)は、第二次世界大戦中に防空壕として造られ、これまで放置されていたトンネル内で行われている新プロジェクトです。
このプロジェクトはLED技術を駆使した垂直農法の実験技術をベースにしています。
この栽培スペースは気候条件に左右されませんし、完全に無菌状態なので農薬も使われません。栽培に不都合な気象現象も起きないため収穫に失敗することはまずありません。
数年前にできたこの地下農園は、今ではロンドン有数の大手スーパーマーケット数社に供給するまでになり、一流シェフにも利用されています。 地下農園を訪れ、こうした農業技術を詳しく学べるツアーも用意されています。