• 2024.10.02
  • 小さな思いやりを石に刻んで
もしロンドンの街中や丘などを歩いていて、さまざまな模様が描かれたカラフルな石を見つけても、驚かないでくださいね。
この石は「カインドネス・ロック」(kindness rock)と呼ばれるもので、多くは鮮やかな色でペイントされ、時に元気が出るようなメッセージや有名な引用句が書かれていることがあります。特別なイベントが開催された会場に、参加者がカインドネス・ロックを(意図的に)残していく場合もあります。主として誰かが微笑んでくれることを願って作られ、見つけた人は無料でもらってよいことになっています。
ささやかな思いやりと誰かに幸せを届けたいという純粋な目的から作られるこの石は、「見つけた人が持ち主」(finders are keepers)になります。
カインドネス・ロックの取り組みでは、自分がペイントした石をどこかに残すのはもちろんのこと、こうした石を見つけて自宅に持ち帰ったり、あるいは通りかかる誰かのために別の場所に移動させたりもします。石を見つけたとSNSに投稿するのも、すてきな楽しみ方の一つです。
また、カインドネス・ロックにはコレクターまでいるんです!
そのほか、SNSには専用サイトもあり、カインドネス・ロックを発見したと報告する投稿もあれば、こうした取り組みを行っているグループからの投稿、オリジナル作品の作り方を教えてくれる投稿なども多数アップされています。
地元や海外のアーティストの中には、カインドネス・ロックを使って作品の宣伝や自分のアートを広めようとする人もいます。石の裏面に自分のウェブサイトのURLやSNSのページを記載するのです。


友人のクレア・Dが作ったカインドネス・ロック

さて、カインドネス・ロックについてはルールがあります。ロンドンでは市議会が禁止事項を設けており、子どもが手に取る可能性や動物や環境への影響を配慮して接着剤や有害な材料を使わない、落下して人にケガを負わせたり器物を損壊したりする危険性のある場所に石を置かない、といった内容が定められているようです。
また、きらきら光る塗料や有害な塗料の使用は避けるべきですし、非常に小さなサイズの石についても、虫や鳥が間違って飲み込んでしまう恐れがあります。
コンセプトはシンプルですが、強力でインパクトのあるメッセージを伝えるカインドネス・ロック。石をペイントしたら、人目につかない(でも辛うじて人目につく)ところに置いておきましょう。誰かが見つけて、お礼を言うためにSNSに投稿するかもしれません。
作り方は簡単です。道端や田舎でどんな形でもよいので石を見つけ、アクリル絵の具、筆、アクリルスプレー(雨でペイントが剥げないように)を用意し、あとは自分の創造性を発揮するだけ。
ペイントする際、油性マーカーや他の種類のラッカーを使う人もいます。
ロンドンではカインドネス・ロックがトレンドとなり、一つの現象として広がりを見せ始めているので、ベンチの周りやモニュメントの付近(私の場合)などで見つけるのも珍しくはありません。
これまでに私も3つ見つけましたが、確かに見つけた時はうれしい気持ちになり、まるで見知らぬ人から思わぬプレゼントをもらったような感覚をおぼえます。「雨降り」のような憂鬱な日でも微笑みを運んできてくれるものですね。
子どもたちの間でもこの取り組みは人気があります。その人気の高さから活動も実施されています。目的はおそらく、さまざまな問題に対する意識を高めるため、あるいは単純に、困難な時期にも人々から微笑みを引き出すためでしょう(新型コロナウイルス感染症のパンデミックの頃、カインドネス・ロックが人気になり始め、ベンチや玄関ドアや窓枠などに石が置かれるようになりました)。
こうした取り組みに参加するのに芸術家である必要はなく、絵を描くのが苦手ならお気に入りの名言を石に書き、誰かの目に留まるように、どこかにそっと置いてみるのもよいでしょう。


私が見つけたカインドネス・ロック
残念ながら、社会では善い行いが急速に広まり始めると、決まって広告や宗教上の説教に利用する人が現れます。カインドネス・ロックも例外ではなく、最悪の事例として、政治のプロパガンダや人種差別のメッセージの拡散に使われているのを目にしたことがあります。
ただ今のところ、こうした悪用はまだ限定的なようです。ほとんどのカインドネス・ロックには肯定的なメッセージが書かれており、見つけた人の日々の暮らしに幸せを届けてくれるのです。

特派員

  • ジャンフランコ・ ベロッリ
  • 職業ブロガー/ミュージシャン

私がロンドンに引っ越してきたのは2年以上も前ですが、ロンドンの外国人居住者向けのニュースレターで、この大都市での体験や新しく引っ越してきた外国人向けのアドバイスを紹介するようになったのは昨年からです。ロンドンはとてもダイナミックな街で、だれもが楽しめるものがたくさんありますが、迷うことなく満喫するためには地元の人の目線を参考にすることが大切です。みなさんにロンドンの隠れた魅力をお伝えするガイドになりたいと思っています。

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