• 2025.05.26
  • スモッグと霧のロンドン
ロンドンのスモッグや霧は、なぜ街の首都の風景と切り離せない風物詩とされてきたのでしょうか。
そもそもこれは神話なのか、現実の話なのか-。
ご存じない方も多いかもしれませんが、ロンドンはその昔、1952年に、ある有名な事件に見舞われました。街全体が肉眼でも確認できるほどの黄緑色の濃霧(スモッグ)に覆われたのです。当時、燃料には主に石炭が使用されていました。このスモッグは、産業用および一般住宅の多くの煙突から排出されるばい煙に含まれるすすなどの物質が、日常的に霧が発生するロンドン特有の冬の気象条件によって地表付近に停滞したことが原因とされています。また、当時主な河川交通ルートとして利用されていた、テムズ川を往来する何百隻もの船から出る排気ガスによる影響もありました。
それまで対策を講じてこなかった無防備同然のロンドンを襲ったスモッグは12月の数日間消えることなく、おびただしい数の中毒者を出し、死亡者も続出しました。恐怖の日々は最終的に死者数千名を記録し、10万以上の人々が何年もの間、病気の後遺症に苦しみました。摂氏0℃前後の厳しい寒さの中、湿度ほぼ100%、無風状態による空気循環の不足といった気象条件の下で、暖房には劣悪な石炭が使用され、工場や車両から排気ガスが排出されていました。こうした諸条件が重なって発生したスモッグは数日にわたり、街に深刻な事態をもたらしたのでした。
視界も著しく低下し、数メートル先までしか見えませんでした。この恐ろしい霧は、住居や学校、集会所など、至るところに忍び入りました。
「これは天罰だ」と言いだす者が多く現れる一方、「産業推進政策が行き過ぎたために発生した自然現象だ」と捉える者もいました。
スモッグ発生後、当局は街で深刻なスモッグ問題の解決策を検討し始めました。
かつてテムズ川では、河口からタワーブリッジを終着港とした大型商船が運航されていました。しかし、手始めに、中心部のタワーブリッジを避けて河口寄りの東方に終着港が移設されました。
船着き場は現在も残っており、かつて工場だった建造物群は再開発され、マンションやその他の目的に利用されています。
その後、住宅の暖房システムも、富裕層から貧困層に至るまで徐々に変化していきました。これにより、スモッグの状況や空気の質が、ゆっくりながらも確実に改善されていきました。
私個人としては、秋から冬にかけて霧がほどよく発生し、霧雨もなくならなければよいなと思っています。そうでないと、ロンドンらしさが失われてしまうのではないでしょうか。
ちなみに「smog」(スモッグ)は、「smoke(煙)」と「fog(霧)」を組み合わせた混成語です。
1950年代に入ると、環境汚染に対する懸念が高まっていきました。当時のロンドンは市内の産業が環境を著しく悪化させており、代表的な悪例として格好の存在でした。
例のスモッグ事件後、ロンドンでは市内の産業がもたらす環境への影響を低減し、今後ますます深刻化する問題に対処していくことを狙いとした「大気浄化法(Clean Air Act)」が承認されました。
そんなわけですから、ロンドンの霧や煙について、愛する街の夢物語のような時代への郷愁をこめて語ろうとするとき、まったく違う現実が存在していた事実を思い出しましょう。
とはいえ、ロンドンに対する大切なイメージを消し去るべきだという意味ではありません。ロンドンを描いたチャールズ・ディケンズの小説や、ロンドンの名だたる画家による絵画、メアリー・ポピンズなどの映画の舞台など、ロンドンは名作の数々とのゆかりも深く、そのイメージはとても大切です。
現実には、1960年代以降、英国は特にロンドンなど大都市を対象とした環境政策を推進し、これにより個人住宅の暖炉の使用禁止など、環境汚染源をほぼすべて排除してきました。
現在、ロンドンはこうした厳格な環境への取り組みと緑地(市内に数多くある公園など)への配慮を継続し、世界有数の低環境汚染率を誇る都市となっています。
その一方で、「霧に包まれたロンドン」の昔ながらの魅力は今も変わることなく、少なくとも街の最も美しい記憶として人々の中にとどまり続けることでしょう。
ロンドンでは霧はますます珍しい現象となりつつあります。霧が現れるたび、雪のロンドンと同じく、市民も日々押し寄せる多くの観光客もその景色を数時間の間大いに楽しんでいます。


今やロンドンでは霧は珍しい現象に

特派員

  • ジャンフランコ・ ベロッリ
  • 職業ブロガー/ミュージシャン

私がロンドンに引っ越してきたのは2年以上も前ですが、ロンドンの外国人居住者向けのニュースレターで、この大都市での体験や新しく引っ越してきた外国人向けのアドバイスを紹介するようになったのは昨年からです。ロンドンはとてもダイナミックな街で、だれもが楽しめるものがたくさんありますが、迷うことなく満喫するためには地元の人の目線を参考にすることが大切です。みなさんにロンドンの隠れた魅力をお伝えするガイドになりたいと思っています。

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