個人的な注目は、そのエステール・スキッパーから登場のアーティスト、ユーゴ・ロンディノーネ。そしてもう一人個人的に気になる映像作家はサラ・モリス。彼女は「カピテン・ペッツェル・ベルリン」という、ここも良く頻繁に足を運ぶギャラリーだが、彼女はそこが所蔵する作品でリストイン。今年のベルリン・アートウィークの中でも、この『アーティストフィルムズ・アット・キノ・インターナショナル』の立ち位置は特別なものになっていると確信。たとえば80年代は、今となっては大ベテランのヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュのようなノーウェーヴを自称する監督達も、娯楽映画でもなく、インディペンデントなロードムービーでもなく、アブストラクトな映像で挑戦した作品を作っていたが、それが広く一般の目に触れるような形で発表されることはなく、美術館の中で数年に1回ぐらいの割合でひっそりと上映されるそういうポジションの映画だった。当時に今の感覚が追いついていれば、それらは「アートフィルム」という単語で紹介されるべき作品群だったんだろうと、このベルリン・アートウィークに来て思うのである。
『ブラックマジック』というプロでもアマチュアでも簡単に映画が作れるカメラが世間に出廻り、デジタルフィルムカメラでも限りなくフィルムに近い表現が再現できる時代。ビデオとフィルムの境目が無くなってきている現象も久しい。この10年代半ばに至って、いよいよビデオアートがシネマの領域に入ってきた、そういう時代であるという事実を、痛いぐらいに視覚と脳裏に叩き込まれたイベントだった。フランスでも、マルセイユではFIDというビデオアートのフェスティヴァルが成長している。前回のフェスでは、ヨナス・メカスの作品をただひたすら上映し続けるという非常に攻撃的な企画もある映画祭だが、こういう趣のイベントがだんだん市民権を得てきているのを確信できる盛況ぶりだ。
デジタル世代における新しい映画祭のコンテンツ「ビデオアート/アートフィルム」が、旧東ドイツ領内ベルリンの歴史的由緒ある映画館「KINO INTERNATIONAL」で紹介されるというシチュエーションも、これからどんな映像を見せられるんだろうという昂揚感を掻き立てられる刺激的な夜だった。
特派員
- 羽生 和仁
- 職業キュレーター、メディアアートマネージメント
2001年ベルリンにて、メディアアートのキュレーションレーベルonpa)))))を設立。世界各国のアーティストやフェスティヴァルとの人脈を構築。ベルリンと東京のジェットセッターとして活動中。
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