• 2019.05.23
  • スローフィッシュとジェノヴァの復興、“slow“なふたつが交差するとき
モランディ橋崩落のニュースが世界中に衝撃を与えたのは、昨年の8月のこと。あの時に大きな痛手を負ったジェノヴァには、意識的かつ現代的な発展のための新たな都市計画が求められています。新しい橋、新しい生活が必要なジェノヴァでは、ポルチェヴェラ川に架ける橋の再建プロジェクトが数多く提案されていますが、ようやく古い橋の残骸の撤去が始まったところで、具体的な計画はまだ何も実行に移されていないというのが現状です。
とはいえジェノヴァの復興は、ゆっくりではありますが着実に進んでいます。昨年末から今年にかけて、災害で自宅や大切な人を失った人々のための募金を呼びかけるイベントがたくさん開催されました。
ジェノヴァで行われるイベントには、災害の記憶を風化させないことを趣旨とするものも多いのですが、災害の記憶を心に留めることがむしろこの街の「再生」のスタート地点にもなっているような気がします。
そんなイベントのひとつがスローフィッシュ(Slow Fish)です。今年もまた世界各国の漁師や料理人、研究者、活動家によるネットワークの代表団を迎えて賑わうスローフィッシュは毎年ジェノヴァで開催される恒例の行事。運営はスローフード協会とリグーリア地方が行っています。
家族連れも気軽に立ち寄れるし、美しいこの地方の海、漁業のテクニックや歴史に関するあれこれが学べる、すごく楽しいイベントなんですよ。
魚やシーフードが好きな人、魚の消費や健康効果、漁業が海洋生態系に与える影響などについて詳しく知りたい人をターゲットに、これまで以上の発展を目指す都市や地域で開催されるこのイベントは、リグーリア地方、ジェノヴァ市、ジェノヴァ商工会議所との協定関係によって行われます。
2019年度のプログラム(インターネットで見られます)をチェックしたところ、マスフィッシング(大量漁獲)が地球温暖化に与える影響を軽減するための心得、プラスチックごみ対策、生物多様性の大切さ、嗜好と健康の両立を目指す意識的選択、食の安全、食品表示ラベルの読み方を知る重要性などがトピックとして挙がっています。


スローフィッシュの人気スポット、Eatery

豊かな資源の宝庫である海をよく知ってもらい、海と地域社会を尊重した伝統的な漁法の重要性を広めるため、今回は約20名の名人級の漁師と9名の料理人が集結することになりました。こういった海の支援者たちが団結して、シーフードと職人的漁業を称えるフェスティバルが開催されることになりました。毎年恒例となったこのイベントをきっかけに、おいしい食べ物と活気ある雰囲気を楽しみながら世界中の海で問題となっている乱獲漁業などについてじっくり考えてみるのも良いでしょう。
この素晴らしいイベントが開催されるのはジェノヴァの海辺の中心街であるポルトアンティコ地区とカリカメント広場を結ぶ区域。開催時期は例年どおり5月上旬です。イベント全体のテーマは、未来の世代の食料と命を守るうえで不可欠な、世界的な必要資源としての慎重な漁業経営に焦点を当てたものになるでしょう。


「スズキのリグーリア風」は白身魚の代表的レシピ

環境や気候変動に関する話題を多数網羅しているだけでなく、グルメな企画も盛りだくさん。Eateryジェノヴァ店のイタリア人シェフや各国のシェフが手がけたランチやディナーのメニューが楽しめます。フェスティバル会場で行われる試食会やワークショップでは生産者の話を直接聞き、五感を刺激されながらさまざまな魚介類や関連商品に出会い、知ることができます。スローフィッシュフェスティバルでは大人向けやファミリー対象の料理教室も開催され、海の世界をもっと深く学び、その秘密に迫ることができます。
鮮魚や魚の保存食品、塩、スパイス、エクストラバージンオリーブオイル、果物のジャムやシロップ煮の直接販売はもちろん、本物のキッチンまで登場してマーケットは大いに賑わいそう。地域ご自慢のさまざまな名物料理を手早く味わいながら、それぞれのエピソードや独特の味わいを思い出に刻む楽しみも、このイベントならではのものです。
そして、スローフィッシュといえば何はなくとも屋台にキッチンカー、ビアガーデン!ジェノヴァの旧港という贅沢な野外の舞台背景も、ご馳走のひとつですね。


スローフィッシュの横断幕

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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