• 2020.08.26
  • リグーリア ブログ リグーリア産ミックスハーブ「プレボッジョン」
プレボッジョンというのは、イタリア語ではありません。リグーリア地方の道端や野山や水流のほとりに自生する、この土地ならではの多年生や一年生のハーブを総称するリグーリアの方言です。(リグーリア地方では県や町、さらには村ごとに「共通」リグーリア語の変種が存在するので、あくまでもリグーリア弁というものがあるとするならば、ですが。)
味は一定ではなく、季節と場所によって異なりますが、地元産ビーツやキャベツの葉、パセリなどを中心にしたハーブの寄せ集めをプレボッジョンと呼んでいるわけです。
厳選したハーブは、収穫後に茹でてスープやオムレツやパイなどに幅広く使用されるほか、何といってもクルミのソースで仕上げるパンソッティ(※ジェノヴァ名物のラヴィオリ料理)のフィリングに欠かせません。
プレボッジョンを使う代表的な料理と言えば、ヤギのチーズが入った野菜のパイと、ホームメイドのラヴィオリでしょうか。
生パスタのフィリングにフダンソウやホウレンソウ(より入手しやすい)を使うレシピもこの頃では多いけれど、伝統的なジェノヴァ流レシピではこのプレボッジョンを詰めたものが登場します。

プレボッジョンのラヴィオリ

プレボッジョンの伝統も、一時はほとんど廃れかけていましたが、何人ものシェフたちが自然の食材を探し求める中でこの料理を再発見し、忘れられそうになっていた昔の味を蘇らせたのです。
これらの野生のハーブの中から食べて良いものと有毒種を見分けられる人材は、昨今では減少する一方です。そのような専門知識は私たちの歴史の一部であり、数世紀もかけて培われた農家の人々の知恵のうえに成り立っているもの。風前の灯のようなこの遺産をどんなに取り戻したくても、それは至難の業なのです。
プレボッジョンの伝統は、多くの地元の人々にとってリグーリアやジェノヴァの神髄ともいえるもの。地域と密接につながりながら、強い存在感とともに歴史の中に深く根を張っています。
この「いろいろ混ざったもの」の起源については最初から謎が多いのですが、どうやら2つの説(おそらく伝説)があるようです。
1つ目は、2世紀のエルサレム攻囲戦の際にジェノヴァ人の十字軍兵士たちが、エルサレムを去る際に薬用にと持ち帰った野草から新しいレシピを考案したというもの。
この説ではさらに、その十字軍兵士のレシピをジェノヴァの港湾労働者が覚えて受け継いだらしいということになっています。
もう1つの説はもう少し真実味があって、プレボッジョンの語源である「プレボッジ(preboggi)」という語が、「茹でる」を意味する”boggi”と、他のレシピで使う前に最初に(前もって)ハーブを茹でることを意味する”pre”から出来ているという説です。
それ以外にも、種類が異なるさまざまなハーブをごった混ぜにした状態がプレボッジョンであると主張する人もいます。
海上封鎖により、子供たちが食べものを恵んでもらおうとよその家の戸口を訪ねまわるほどの食糧難に陥った19世紀のジェノヴァでは、地元で採れる(どこにでもある)ハーブが大釜で煮炊きされ、とくに貧しい人々にふるまわれていました。
食糧難が始まって間もなく、野生のハーブのスープを安価で提供せよとジェノヴァ市長が命じたことで、これらの野草はジェノヴァ市の救世主となったのです。
この歴史を記憶にとどめるため、私たちは毎年、11月15日の聖アルベルトの日を食糧難の終息日としてお祝いします。

地域ごとにバリエーションが生まれるというイタリア料理のお約束どおり、リグーリア州各地に色々なプレボッジョンが存在します。リグーリア州のある地域ではカボチャの花の同義語となり、別の地域ではこれらの野草は単にハーブと呼ばれ、実にさまざまなサラダや火を使わない料理のレシピに使われています。

長年の記憶をずっと受け継いできた、我らがリグーリア州の台所。ぜひこの土地に立ち寄って、プレボッジョンの私たちなりのアレンジ(と、それを使った料理)をレストランで味わってみてほしいものです。

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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