新型コロナウイルスの影響もあり、寒い季節の到来とともにやることがいよいよ何もなくなって、暖かい頃に野外で楽しんだあれこれが思い出に変わることを、イタリアで暮らす私たちは少し憂いているのです。
リフレッシュできそうな近場に出かけるには、それでも9月はまだなかなか良い時期です。というわけで私は先日、リグーリア州に数多くある美しい公園のひとつ、ヴェンティミリアのハンブリー庭園に行ってきました。
ヴェンティミリアのハンブリー庭園とヴィラ・ハンブリー
この庭園は、フランスとの国境に向かって最後の町であるヴェンティミリアから近い、モルトラという小さな村にあります。
多種多様な草や花々が見られる野外庭園がたくさん集まったこの公園には、庭園以外にも温室や研究所、公園の創設者の名を冠したヴィラ・ハンブリーという美しい宮殿があります。
これらの庭園はとても豊かな環境にあり、実際、庭園の目の前の海域(ヴィラは海を望んで建っています)を含め20ヘクタールほどある地域行政の保護区域の一部となっていて、ジェノヴァ大学が運営しています。さらにはリグーリア・ネイチャー・ネットワークの一部であったり、世界遺産としてUNESCOに申請中だったりと、地域にとっても重要な場所なのです。
公園は今でも民間所有のため入園料がかかるけれど、チケット代を払うだけの価値はあります。その料金は庭園の維持管理や、ここで行われている研究調査の費用に充てられています。
園内の草花は自然の寿命と繁殖サイクルに従って育つため、夏に枯れているように見える種もあれば、最も暑い頃に満開となる花もあります。
ブーゲンビリアやハイビスカス、ラベンダーなどが盛りを迎える8月は、花々が色とりどりに咲き乱れる季節です。
花盛りのブーゲンビリア
公園内にはフランスカイガンショウ(通称オニマツ)やヤシの木、サボテン種やリュウゼツランなどの樹木や灌木も多く見られます。
枝や茎の果実はそのまま熟れるにまかせます。庭園や公園内の畑で回収した種子はラボの研究材料になるか、世界中の植物研究所に送られます。
ここのアーチや階段、望楼、噴水や彫刻は、花々や草木で美しく飾られています。
この見事な庭園は、トーマス・ハンブリーが19世紀に作ったもの。草木と園芸を愛した慈善家の英国人ハンブリーは、休暇で訪れたリグーリア地方に惚れ込んでしまいました。
当時からあったモルトラの庭園を引き継いだハンブリーですが、彼はここを変えてしまうのではなく、兄弟や大勢の協力者たちと共に改良を加えることで現在のような素晴らしい姿に完成させました。ナポレオン街道建設以前の古代ローマ時代に出来た道路でヴィラに通じるアウグスタ通りのように、メンテナンスによって今も残る小道があります。今でも公園内の庭園の間を南北のエリアに分かつのが、このアウグスタ通りです。
このほかにも杉の並木が見事な小道があり、これを行き止まりまで歩けば、ムーア式のあずまやと蔓を美しく這わせた蔓棚付きの展望台が出迎えてくれます。
さらには、水生植物が生育する岩石庭園、コイやカエルのいる池、敷地の東側にユーカリの木を生やしたオーストラリア風の森まであったりします。
トーマス・ハンブリーの死後、その仕事を継承した彼の妻と息子がここにある木を種類別に分類するという偉業を成し遂げたおかげで、庭園群が植物園に生まれ変わりました。後年、元の公園にオリーブや杉の木も追加され、生垣や噴水、豪華な階段なども作られました。冬の間でも日光を最大限浴びられるように大きな窓を付けたハウス・オブ・ザ・サン(「太陽の家」)は、夫人のドロシーが建てたものです。
「種の多様性」温室では、沿海アルプスやリグーリアン・アルプスを含めたアルプス山脈の植物が展示されています。ここでは、ヴェンティミリアの気候に適合できるように作られた、植物にとって最高の環境が再現されています。
ひと息つきたくなったら、休憩所でサンドイッチやラップサンド、スタッフド・フォカッチャなどを食べることができます。