• 2021.02.25
  • 伝統ある日曜日のランチ
新型コロナウイルス感染拡大が始まってからというもの、ここイタリアでさえもフードデリバリー用のアプリやサービスが増えているのは事実で、これまではレストランで食べていたものを、デリバリーで注文する人の割合は増すばかりです。地方自治体が全面的に禁止するとまではいかなくとも、とにかく極力出かけないように言われている手前、どの家族も外出を控える努力をしています。それでも、制限の範囲内で人数を減らしながら、イタリアの「日曜日のランチ」の伝統は今なお健在です。
日曜日のランチは国民の美食文化のシンボルのようなもの。イタリア人家庭の多くは、毎週日曜日には50年前から変わらぬメニューが並ぶテーブルを囲んで過ごしますから、少なくとも週1回は、出来合いの料理や冷凍食品ではなく地元の食材や郷土料理が食卓の主役になるということですね。
日曜日のランチは、その昔日曜の朝には連れ立ってミサに行っていた頃の習慣(今でもそうする家庭はほとんどありません)が起源となっていて、家族の中の誰かの家に集まり(いつも同じ家か、当番制かはその家庭によります)、多くの場合は祖父母やいとこや両親と一緒に、みんな揃って昼食をいただくというものです。
我が家はイタリアではごく少人数のほうなので、こういう伝統に積極的に取り組んだりしないのですが、喜んで客人を招くのがイタリア人家庭というもので、よそのお宅の日曜日の昼食におよばれしたことは何回もあります。少なくともコロナウイルスが蔓延するまでは、参加者を家族に限定するような厳格な決まりはなかったのです。
昔ながらの方式でフルセッティングを施したテーブルには、おばあちゃんの手編みや手刺繍の、何十年も前から家族が大切にしているテーブルクロスが敷いてあることも。1番上等な銀のカトラリーや磁器のお皿にも、この日は出番が回ってきます。
祖母は美しいドイリー(レース編みの敷物)やレースのマットを作っていたのですが、それらは今も保管してあって、テーブルクロスなしでテーブルを飾るのに使うこともあれば、逆にクロスだけのスタイルを採用する日もあります。


家に伝わるドイリーたち


毎回ふんだんな料理が用意される当日のメニューを決めるのも、ホストの仕事です。その土地に伝わる数種類のアペタイザー(前菜)に続いて、ラヴィオリなどの詰め物系パスタかニョッキ、タリアテッレといった生パスタ、あるいはラザニアのようなグリルしたパスタがコースの1品目に登場します。
ここリグーリア地方で前菜と言えば、毎日水揚げされる新鮮な魚介を使ったものが一般的で、タコとジャガイモのサラダやスタッフド・アンチョビ(詰め物をして焼いたカタクチイワシ)、イカやカタクチイワシのフライ、魚介のマリネなどが出されます。コースの1品目としてこの地方でお馴染みなのは、トロフィエ(ねじれた形の生パスタ)、ラヴィオリ、ニョッキなどに、ペスト(ジェノヴァ名物のバジルのソース)または秋ならキノコ、夏はイカといった季節ごとのソースをかけたひと皿でしょう。


キノコのソースのお手製ラヴィオリ

家族が暮らしている地域によって異なる魚かお肉の料理に、オーブンで焼いたジャガイモや野菜を添えたものが2皿目に出され、そのあとにデザートが出たら食事は終わりです。
リグーリア地方ではこの2皿目の料理として、当地の代表的食材である魚かウサギ肉を焼いたものがよく出ます。
ホストがデザートまで手づくりすることはめったにありません。ワインとデザートの準備は他の誰かが受け持つという「暗黙の了解」があるからですが、デザートの話は次回のブログに詳しく書きますのでどうぞお楽しみに。そうは言いつつも、ホストからはコーヒーと紅茶、ビスケットにフルーツ、そしてしばしばナッツなどが振る舞われます。イタリア人ファミリーが客人を空腹な状態で帰らせることなど、まずありません!
ランチを終えたあとの日曜の午後(おしゃべりとコースの料理で、ランチは非常に長引きます)は、食べたものを消化するためにソファにもたれて過ごします。その時間、ラジオのサッカー中継をみんなで聴くのが習わしだったのですが、試合の放映権を買った有料テレビ配信サービスがそれぞれのテレビ局でオンエアするようになり、ご贔屓のチームごとに試合日時がバラバラになった昨今は、ラジオのサッカー中継など誰も聴かなくなってしまいました。

特派員

  • パトリツィア・ マルゲリータ
  • 職業翻訳、通訳、教師

生まれはイタリアですが、5ヶ国語が話せる「多文化人」です。米国、ブラジル、オーストラリア、フランス、イギリスで暮らし、仕事をした経験があります。イタリアと米国の国籍を持っていますが、私自身は世界市民だと思っています。教師や翻訳の仕事をしていない時は、イタリア料理を作ったり、ハイキングをしたり、世界各地を旅行したり…これまで80カ国を旅しましたが、その数は今も増え続けています!

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