ジェノヴァは銀行家や商人、船舶の所有者の数が多い街ですが、それ以外にもここにはかつて外交官や教会の関係者、王子や国王といった人たちが暮らしていました。
パラッツィ・デイ・ロッリが建てられたのもそうした背景があったからで、この「ロッリ(Rolli)」という言葉は「ロール(任務)」に由来しているそうです。
宮殿群は、ジェノヴァを訪れた重要人物を迎えるため、それぞれの格式に基づいて迎賓館目録に登録されていました。これらの宮殿を訪れると、ある共通する特徴に気が付くでしょう。それは「ジェノヴァ式の床」です。
ジェノヴァ式の床は、16世紀のヴェネチアの床様式をもとにしてリグーリアで発展しました。
ジェノヴァの人たちはヴェネチア式のテクニックを取り入れ、そこに独自の特徴を加えてこのジェノヴァ式の床を確立したのです。
別名「ジェノヴェーゼ・グリット」としても知られるジェノヴァ式の床は、分厚くて表面が非常に硬いのが特徴で、その素材は粒状の大理石や石灰岩、レンガの粉末などが混じり合ったもの。
大理石やレンガ以外にも、河原の小石や半貴石まで使われています。
モザイク状のパターンによって装飾が施されているのも特徴で、床を芸術品へと変貌させています。ジェノヴァ式床の素晴らしさは、まちがいなくこの高い美的価値にあるでしょう。
実際、価値の高いエレガントな床は、それだけでどんな部屋も美しく飾り立ててくれます。モザイクのいいところは、自由にデザインが可能で、例えば建物の落成日などの文字をあしらうこともできること。だから100%カスタマイズ可能で、家の床を唯一無二の本物の芸術品に変えてくれるのです。
古い家にはこのタイプの床を使ったものが多いのですが、たとえ自分の好みじゃなくても、価値あるものだからとそのままにしている人もいます。
モダンな家具にはあまりマッチしませんが、丈夫で掃除がしやすいというメリットもあります。
非常に厚みがあるので、年数が経っても大勢の人が歩いても劣化しにくく、激しい衝撃にも耐性がある、特に強い床のひとつとされています。
私も幼少期、おばあちゃんの家の床に色んなものをこぼしましたが、あとの掃除も簡単なものでした。
床に何かこぼしてしまった時は、とにかくすぐに拭いてきれいにすることが重要です。多孔質で水分が染み込みやすい素材なので、シミが残ってしまう可能性があるからです。
砂糖が入った飲料やお酢、赤ワイン、コーヒー、油など腐食性のあるものや油分を含むもの、濃い色の液体をこぼさないように気をつけることは必須です。
ただ、この弱点も一過性のものだ、という点も覚えておいてください。
実際、ジェノヴァ式の床は時間とともに浸透性が落ちていきます。つまり、新しいものほど繊細だというわけですね。
毎日のように床の表面をマルセイユ石鹸などの中性洗剤と水でしっかり洗っていれば、ジェノヴァ式の床はずいぶん早く水分が染み込みにくくなる、とおばあちゃんがよく言っていました。
あと、既存の床の上にジェノヴァ式の床を重ねたくても、その厚みのせいでほとんどの場合は難しいという点も付け加えておきましょう。
ジェノヴァ式の床を作るには長い時間がかかりますから、床を準備するタイミングも考慮する必要があります。