『昨日も今日もこの先もずっと天国の風に捧げられるバグパイプの調べそこにはスコットランド人の心の底にある
喜びと悲しみ、戦争と平和への深い思いが込められている』(Lament for the great music(偉大な音楽への哀歌)、ヒュー・マクダーミッド)バグパイプとその音色はスコットランドのアイデンティティーを象徴するものです。バグパイプは袋状の管楽器で吹管と4本のリードで音を鳴らします。この楽器にはスコットランドを連想させるステレオタイプなイメージばかりでなく、特にイギリスのこの地域における歴史と文化の中に脈々と受け継がれていることは明らかで、紛れもない音色が感情を激しく揺さぶります。大半の人はスコティッシュバグパイプを軍事パレードや葬儀、重要な公的行事で目にするかと思いますが、さらに踏み込んで「バグパイプの驚くべき事実」に目を向けると、スコットランドの伝統音楽の偉大さを知ったり、ケルト音楽の世界の奥深さや魅力に迫ることもできます。
スコットランドの重要な式典に必ず登場するバグパイプ。
現在、バグパイプは主にハイランド・ゲームなどの伝統的大会で用いられています。年に1度のこのゲームでは、屈強な参加者たちがさまざまなレースやコンテストで競い合います。バグパイプはまた、結婚式やその他のフォーマルな式典でもよく演奏されますが、それ以外で奏者を見かけることはほとんどありません。(観光客向けの特別な奏者は除く。)世界にはバグパイプにまつわる音楽の伝統を持つ国が実はたくさんありますが、この伝統がクラシック音楽に匹敵する形で発展したのはスコットランドのハイランド地方だけです。バグパイプ発祥の地がスコットランドであることは現在広く受け入れられていますが、おそらく13世紀に中東から伝来し、旅回りの演奏者たちによってヨーロッパ全土に広がったとみられます。バグパイプがいつスコットランドに伝わったのか正確には分かっていませんが、一部の学者によると15世紀だということです。
路上のバグパイプ奏者
ただ確実に言えるのは、16世紀にはすでにバグパイプがスコットランドの軍隊で使用される楽器になっていたということです。この楽器が伝わるまでは、ハイランド地方で普及していた音楽といえばドラムや原始的な管楽器を使用した曲に限られていました。ハープは貴族の楽器として重要な行事でのみ使用されていましたが、音がとても小さいため屋内での演奏に限定されていました。それに対して力強いバグパイプの音色は、数マイル離れたスコットランドの谷間でさえ聴くことができたはずです。ケルトハープの使用が氏族の間で継承されたように、バグパイプの演奏技術も父から息子へと受け継がれていきました。1700年代頃にはもう、バグパイプを専門に学ぶための大学が誕生し始め、氏族の長は息子たちをここへ送り込んで、経験豊富な腕のいい名人のもとで修行させました。こうした名人やその継承者の幾人かはスコットランドで特に名声を得るようになり、MackayとMcCrimmons は名家として最も有名でした。
軍事パレードに参加するバグパイプバンド。
バグパイプバンドのパレード。
ハイランド地方の偉大な歴史の後に待っていたのは、イングランド軍へのスコットランドの降伏でした。スコットランドはハイランドの伝統が衰退するのを目の当たりにすることになりました。(これにはバグパイプの伝統も含まれます。)貧困、人口過密、法外な税金、イングランド国教会への反感などを理由に、多くのスコットランド人が北アメリカ各地への移住を決めたり、イギリス軍に入隊したりしました。バグパイプ音楽はゲール文化と深いつながりがあります。大まかに言えば、バグパイプ音楽には2種類あります。ゲール語ではCeòl MórとCeòl Beagと呼ばれていて、「ビッグミュージック(勇壮なあるいは悲しげな風笛曲)」と「リトルミュージック(行進曲と舞曲を含む部分)」を意味します。多くの博物館やお城の所蔵品からもバグパイプにまつわる興味深い話を知ることはできますが、 本気でもっと知りたくなったら、グラスゴーにあるナショナル・パイピングセンターをまず訪れてみてください。300年以上にわたるバグパイプの歴史をたどったり、世界最古のスコティッシュバグパイプを眺めることができるこの施設では、シンボリックなこの楽器についていっそう深く学べるため、修学旅行には必ず組み込まれているほどです。