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  • 2019.09.11
  • 神話を伝える木
私はカナダに引っ越すまで、トーテムポールに強い関心を向けることなど全くありませんでしたが、この国で暮らすようになって大好きになりました。どこにでもあるわけではありませんが、博物館にしろ公園にしろ、その姿を見ると、今カナダに住んでいることを実感させられます。この古くから伝わるアメリカ大陸の文化は、イギリス人やフランス人が来るずっと前から存在していました。
私にはトーテムポールがまるで歴史書のように感じられます。普通の本とは違い、杉の木で作られているし、サイズもかなり大きいですけどね。最もすぐれた彫刻の名人は北西沿岸地域に住むインディアンたちでした。口頭で語り継がれてきたさまざまな話とは別に、伝えておかねばならない神話をトーテムポールに描いて遺産として現し、受け継ぐ人々はその描かれた内容を解釈してきました。


現在、トーテムポールは主にバンクーバーと西部カナダ周辺に点在していますが、カナダ全土で目にすることができ、それぞれ発祥の地を象徴しています。時を経て優れた表現形式が確立されていき、近隣の種族もインスピレーションを感じ始めるようになります。
先住民が好んで材料に用いたのは杉の木で、モチーフは大抵、スピリチュアルな世界を再現するものでした。再現されたテーマは儀式の種類によってさまざまでした。子供が生まれたとき、結婚したとき、部族の首長が亡くなったときなど、特別な機会に備えて彫刻されるのが一般的だったからです。神話全体を表現したものも珍しくなく、あらすじのようなものを木に刻み込んでいました。
こうした中でとりわけ関心を集めたのは人の顔と、その地域に生息するクマ、ワシ、サケ、クジラ、カエルなどの野生動物を表現したもので、トーテムポールのてっぺんに姿を見せるカラスは特に好まれました。と言うのも、インディアンにとってトーテムポールは人の祖先を表すもので、各先住民の一族の家系図のような存在でもあったからです。文字で表現した家系図と言ってもいいかもしれません。
ですから、動物の形をしたものも適当に選ばれたわけではなく、後世に伝えるべき事実や部族の特徴、伝説的な意味合いを含む要素を思い起こさせるものとなっていました。トーテムポールには戦いの話はもちろん、嵐や部族の社会的業績の話についても刻まれています。
トーテムポールはその多くが人気のない浜辺や森の開拓地に立てられていて、ブリティッシュコロンビア州(太平洋に面したカナダの州)のものは謎めいた神秘的な姿をしています。トーテムポールは私たちが知る最も素晴らしい原始的芸術作品と言えるでしょう。
博物館の中でさえ、エキゾチックな起源を持つ他のどんな展示品よりも注目を集め、大昔の名人が彫刻したグロテスクな顔や神秘的な形に来館者は圧倒されます。
そして今日では、最も才能あふれる彫刻家の神髄は、現代に即したそのスタイルの中に見ることができます。彼らの手にかかれば、単なる杉の幹が生活や伝説に由来するシンボリックな姿に変身するのです。
トーテムポールは何にもまして記憶を残すという役割を果たしていましたが、この「話す木」は自分たちの起源については不思議なほど沈黙を貫いています。南太平洋に似たような彫刻はありますが、他の北アメリカの部族の作品とは大きく異なっているため、民俗学者の多くは、アメリカ北西部の最初の先住民は約1万年前にベーリング海峡をわたってアジアからやって来たと考えています。このインディアンは森と海の豊かな恵みによって栄えた海岸に住み着いたと言われ、非常に洗練された文化を生み出しました。「サケを食べる人」と呼ばれた彼らは、杉板で作ったコミュニティの住居で暮らしていましたが、次第に木工技術に精通するようになり、石や骨でできた道具をヨーロッパから伝わった鉄製の道具に持ち替えた19世紀には、トーテムポール彫刻家の黄金時代を迎えました。高さが最大25mに達するようなものもあれば、「神話を伝える木」という呼び名にふさわしいシンボリックな要素を強調した、非常に美しいものもあります。
カナダではトーテムポールは高く評価されていて、すぐれた作品は今もカナダ各地の博物館で展示されています。

特派員

  • パトリック・ サッコ
  • 職業エリオット・コンサルティング社エンジニア

こんにちは! 私はパトリックと言います。スコットランドのエジンバラ在住で、土木技師をしています。趣味は詩を書くことです。9年ほど前にイタリアからスコットランドへ移住し、この土地に惚れ込んでいます。雨の多い気候を好まない人もいますが、その気候のおかげでここは緑豊かな風景に恵まれています。暇を見つけては、車でエジンバラ郊外へ湖や渓谷を見に出かけています。

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