• 2020.06.26
  • スコットランドみやげ
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による事態が収束に向かいつつある現在、私もようやくカナダに戻るチケットを予約することができ、間もなく帰国することになりました。
今回の事態は、私の人生で最も過酷な出来事のひとつとして間違いなく記憶に残ると思います。なにしろ、外国で足止めされ、病気になることや仕事をクビになることを恐れたり、家族のことを心配したりしながら過ごしていましたからね。
でも、こういう全ての「ネガティブなおみやげ」のひとつとして、「強制的に」スコットランドで過ごすことになった期間を記憶に残すために何か欲しくなったので、家に持ち帰る「スコットランドみやげ」を買うことにしました。カナダに引っ越す前、最初にここに住んでいた頃は、おみやげなんて考えたこともありませんでしたけれど。
私がまず買ったのはスポーランです。
スポーランは、ここスコットランドに住む人なら誰もが耳にするちょっと変わった単語のひとつですが、この語が何を意味するのかを明確に答えられる人は(イギリス人でさえ)あまりいないかもしれません。
スコットランドの民族衣装には欠かせないものなのですが、具体的にどんなものなのでしょうか。
スポーランはキルトの前にぶら下げる小型のポーチのことです(ゲール語でバッグやケースを意味します)。キルトがずれないように固定している丈夫な革製のベルトにぶら下げます。キルトにはポケットがないので、貴重品をしまえるようにスコットランドの男性向けに生み出されました。
こう言った純粋に実用的な用途に加え、スタイルのちょっとしたアクセントにもなりますし、クラン(氏族)の色で装飾したものはなおさらです。
もともとはハイランドの戦士が1日分の弾薬や食料を入れておくための袋で、雌ジカの毛皮でつくられていました。12世紀の記録には体の前にぶら下げる小さなバッグと記されています。ところが、由緒正しいスポーランは16世紀にキルトが開発されるまで登場しませんでした。
何世紀にもわたり工夫に工夫が重ねられていきました。毛皮の種類はアナグマやオコジョ、アザラシに替わり、真ちゅうや銀の留め金が付けられ、模様のあるデザインで装飾されることもありました。また、ときにはキツネや馬の毛でできた房飾りも付けられました。
スポーランの上部のスクープと呼ばれる出し入れ口は、革ひもで上部に取り付けられていました。このデザインの面影は革チェーンと房飾りとして現在のスポーランにも残っています。
現代のスポーランは今や装飾性の高いアクセサリーとして、結婚式や国民の祝日などの正式な場で着用されています。
一般的にスポーランには3つの種類があります。普段着に用いるスポーランは革製でカジュアル仕様です。正装用のスポーランはもっと手が込んだ作りになっています。アザラシかウサギ、アナグマ、カワウソの毛皮でできていて、フォーマルなイベントでのみ着用します。最後に紹介する半正装用のスポーランは普段用と正装用どちらにも使用します。
ところで、スポーランはどのように着用すれば良いのでしょうか。スポーランはキルトの上から体の真ん中に位置するように身に付けます。最上部がウエストのベルトのバックルから手の平ひとつ分下に来るようにします。フォーマルな場では、スポーランの着用マナーが求められます。例えば、ディナーの席に着くときは必ずスポーランを何もない腰側に移動させます。こうすることでナプキンを膝に置けますし、スポーランが邪魔になることもありません。
私が2番目に買ったのはお茶です。
カナダの紅茶はおそらく輸入品なのでイングランドの紅茶がすごく恋しかったのですが、スコットランドの紅茶を飲んでみたら、こちらの方がもっと好きになりました。
スコットランドはウイスキーが有名ですが、質の高い紅茶も忘れてはいけません。ハイランド産のスモークホワイトティーは特に品質がすばらしく、中国や日本のような何世紀もの伝統に根ざした国のお茶をしのぎ、世界最高と評価されています。スコットランドの紅茶はパリのサロン・ド・テでなんと「金賞」を受賞しました。受賞したお茶の生産者が生産を始めてほんの数年しかたっていないことを考えると、このニュースがいっそうすごいものに感じられます。
そんなわけで自分用にこのお茶を買いたかったんです。こうした「スコットランドの経験」を家まで持ち帰る準備ももうすっかり整いました。


特派員

  • パトリック・ サッコ
  • 職業エリオット・コンサルティング社エンジニア

こんにちは! 私はパトリックと言います。スコットランドのエジンバラ在住で、土木技師をしています。趣味は詩を書くことです。9年ほど前にイタリアからスコットランドへ移住し、この土地に惚れ込んでいます。雨の多い気候を好まない人もいますが、その気候のおかげでここは緑豊かな風景に恵まれています。暇を見つけては、車でエジンバラ郊外へ湖や渓谷を見に出かけています。

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