サロンイベントレポート
木曜サロンレポート
- テーマ:
- 第8回ナレッジイノベーションアワード受賞者シリーズ第6弾
認知症の記憶障害を“自分ごと”として体験するVR
開催日: 2021年6月24日
○活動の主旨、目的○
アカデミアの世界でVRが登場したのは50年以上前のこと。その後2回のブームを経ながら、近年さらに進化を遂げ、活用の場が広がりつつあります。
そんなVRを用いて“他者を理解する”ことをコンセプトに学生の皆さんと共に、様々な分野に貢献しようと取り組まれている井村氏にお話を伺いました。
これまでのVRの変遷と、現在の様々な活用例、そして今回受賞された社会福祉分野での取り組みに加え、医療現場での最新のプロジェクトについてもご紹介いただきました!
ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール
井村 誠孝 氏
関西学院大学 工学部 知能・機械工学課程 教授
奈良県奈良市出身。
2001年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了。
同年同研究科助手。
2009年大阪大学大学院基礎工学研究科准教授、2015年関西学院大学理工学部教授、2021年同工学部教授。主な研究分野は、バーチャルリアリティ、ヒューマンコンピュータインタラクション、エンタテインメントコンピューティング、医用工学。
ナレッジドナーインタビュー
- VRの研究において、一番再現が難しい感覚は何でしょうか。
- いわゆる五感と呼ばれている基本的な感覚の中では、味覚と嗅覚の再現が難しいと思います。視覚・聴覚・触覚は、光や振動といった物理的な刺激を感じるのに対し、味覚と嗅覚は化学的な刺激を感知するのでアプローチが非常に難しいです。さらに、視覚が光の三原色である赤・青・緑の組み合わせで対応できるのに比べて、嗅覚は人間でも約400種類ものセンサーで感じているため、大量の種類の刺激を用意する必要があることもハードルのひとつです。また、触覚の中でも「くすぐったさ」や「かゆみ」といった微妙な感覚は再現が難しいです。他に「痛み」の研究もやってみたいと思っています。例えば、病院でどのくらい痛いか聞かれた時に「シクシク痛みます」と言ってもよく分かりませんよね。このような痛みの感覚をVRで再現することができればと考えています。
- 認知症の他に、今後VRで取り組んでみたい社会課題などはありますか。
- どのように実現するかはまだ分かりませんが、考えていることはいくつかあります。例えば、SNSにおける「炎上」を見ていると他者への無理解が背景にあると感じますので、VRで攻撃される側の心情を体験することが互いを思いやることにつながらないかと思っています。もう少し具体的な例としては、スポーツ選手の視点を共有するものや、統合失調症などの疾患の症状を理解するものが挙げられます。また、教育分野では「どうしても理解できない」や「なぜかやる気が起きない」などの他者には分からない状態にVRでアプローチできないかと考えています。中でも一番やってみたいのは、VRで「初心者だった時に戻る」ことです。学生にコンピュータープログラミングを教えていると、なかなか概念を理解してもらえない場合があります。今では当たり前に理解できている概念であっても、私も初めは分からなかったはずですが、どのように乗り越えて理解できるようになったかを思い出すことができません。そこで、初心者だった頃の自分に戻って初心者の気持ちが理解できればと思います。難しいですが、ぜひ取り組んでみたい課題ですね。
※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。
木曜サロンとは
幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。
ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。