サロンイベントレポート

木曜サロンレポート

テーマ:
蒸発しない液体“イオン液体”が世界を変える!?

開催日: 2021年9月16日

○活動の主旨、目的○
「電気で反応を起こすことにより、電気エネルギーを化学エネルギーとして蓄える、あるいは、化学エネルギーから電気や光を発生させる。こういうエネルギー変換を高効率に行えるようにするのが我々の使命です」と語る桑畑氏。
そんな電気化学分野の権威である桑畑氏が注目するのが“イオン液体”です。
イオン液体は水、有機溶媒に続く「第3の液体」として、1992年に誕生しました。常温で液状の有機化合物である画期的な液体で、十数年の間に数多くの種類が創り出され、数年前から国内外の試薬会社も競って販売し始めるようになりました。
親水性のものや疎水性のもの、さらには水にも有機溶媒にも混ざらないものなども合成されており、それらを使い分けることでクリーンな溶媒としての利用が注目されています。
電解質として機能することから、電池やキャパシターを始めとする種々の電気化学デバイスへの利用に関する研究も行われており、さらに、蒸発せず電導性を有するという特徴を生かし、電子顕微鏡観察へ応用する方法が桑畑氏によって開発されました。
今回は化学の常識を覆し、エネルギー分野をはじめ多くの活用の可能性を秘めた液体“イオン液体”についてご紹介いただきました。

ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール

桑畑 進 氏
大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 教授

1982年3月に大阪大学工学部応用科学科を卒業し、大学院の修士課程、博士課程を経て、1986年4月に大阪大学助手となり、その後、講師、助教授、そして2002年4月に教授となり現在に至るという、(今では絶滅危惧種となりつつある)阪大生え抜きの教員。
専門分野は界面電子移動の高効率化と機能化、薄膜および表面界面物性関連、ナノ材料科学関連で、それらの研究をする中、イオン液体の面白い特徴を知ることとなった。趣味は、研究室の学生との真面目な議論と超ふざけた世間話をすること。

ナレッジドナーインタビュー

  • イオン液体が環境に及ぼす影響についてお教えください。
  • イオン液体は様々な種類のものを作ることができます。例えば、自然分解できるものも作れますし、安定性が高く分解しにくいものも作ることも可能です。自然界で分解されなければ公害になるのではないかと懸念される方もいらっしゃいますが、イオン液体の場合は陽イオンと陰イオンを組み合わせて初めて液体になり、それぞれのイオンには、ごく普通に世の中に存在しているものも数多くありますので、環境に影響を及ぼすような特殊なものではありません。すなわち、環境に負荷を与えないイオン液体が必要であれば、そのようなものを合成すれば良いのです。
  • イオン液体は、固体や気体など、液体以外の状態で使用することは可能ですか。
  • 冷却して融点よりも低くなれば固体になりますが、イオン液体は蒸発して気体になることは絶対にありません。もしも気体になるとしたら、それは熱を感知し過ぎて分子が分解されて気体になるという場合くらいですね。イオン液体は概ね−20℃から−30℃で固体になりますが、固体にする際「過冷却」という現象が起きることがあります。つまり、マイナス数十度になっても固体にならず、ある種の刺激を与えると固体になるというものです。この現象を上手く利用する方法があるのではと考えていますが、私の知る限りではまだ具体化には至っていません。
    現在、イオン液体の研究が世界で一番進んでいるのは日本です。例えば、論文数も合成した種類も日本が最多という具合です。それぞれの研究者がイオン液体の様々な用途を開発していますが、私は化学の分野を超えたところにさらに多くの新たな活用方法が見つかるのではないかと考えています。今後、イオン液体の用途がますます広がっていくことを期待しています。

※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。

木曜サロンとは

幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。

ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。

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