サロンイベントレポート
木曜サロンレポート
- テーマ:
- 身体から生えてくる柔らかい分身ロボット!? -愛すべき“弱いロボット”たち-
開催日: 2022年6月23日
○活動の主旨、目的○
ソン氏の研究の源泉となる興味や疑問を明らかにすべく、「持ち物である洋服が自死(中古販売サイトに投稿)をする」というコンセプトのシステムや、ぬかボットというぬか床の微生物と対話しながら人間の行動を促し協業するロボットなどさまざまな研究について紹介頂き、そこに通底する“弱いロボット”の考え方についてご紹介頂いた。その上で、イノベーションアワードで準グランプリを受賞した柔らかいロボットについて触れた。人間の見ていないところで完璧な作業をこなすロボットとは違い、人間と生活空間を共にし、信頼関係が醸成されるためには完ぺきなロボットではなく人間が幸せに暮らすのに必要な営みを最低限の機能で補助する“弱いロボット”が必要であることが理解出来るご講演となった。
ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール
ソン・ヨンア 氏
法政大学デザイン工学部 准教授
2012年東京大学学際情報学府博士課程修了、博士(学際情報学)。韓国のサムソン電子(株)に入社し、新規事業開発及びUXデザインに従事。
2017 年に退社、東京大学 JST 川原 ERATO 万有情報網プロジェクトの特任研究員を経て、
2020 年から法政大学デザイン工学部の客員准教授に着任。
インタラクションを通じて変化していく感情体験の理解と価値創出に関する研究に従事。
Innovative Technology、インタラクション2018/2022発表賞、ACM UIST/IEEE Robosoft Best Demonstration Awardなど受賞。
ナレッジドナーインタビュー
- モノが自らの意思で去っていくという「ラポトーシス (rapoptosis)」※1の研究において、対象に「服」を取り上げられたのはなぜでしょうか。
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研究仲間と何か面白いテーマはないかと話している時に、キーワードとして「儚さ」が挙がり、そこから発展して細胞の自然死「アポトーシス(apoptosis)」※2という生命現象があることを教えてもらいました。私自身が服に興味があって、服やモノが多いことに困っていたこともあり、たくさんある服が「アポトーシス」のように自然消滅してくれればと思いました。消えていくということは、一方では悲しいけれど、もう一方では嬉しいのではないかと、その当時はピッタリはまるようなイメージが湧きました。「ラポトーシス (rapoptosis)」の研究と服が結びついたのは、自分自身の経験とニーズがあったからだと考えています。
ほとんどの研究テーマは、普段から気になっていること、興味のあること、困っていることなどが自分の中の引き出しに入っていて、それらがある瞬間、偶然アイデアとして出てくるようなイメージです。経験がなければ、研究するのは難しいのではないかと思います。
※1「ラポトーシス (rapoptosis)」は造語。モノが潜在的な存在価値を自ら判断し使用者と存在価値の相互認識を行った後に主体的に去り(積極的な自死:apoptosis)、存在場所を変えて存続する(再生:renatusu)仕組みを意味する。モノに生命を宿す情報技術と捉えられている。
※2「アポトーシス(apoptosis)」とは、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺、つまりプログラムされた細胞死のこと。Apoptosisの語源はギリシャ語の「apo-(離れて)」と「ptosis(下降)」に由来し、「(枯れ葉などが木から)落ちる」という意味を持っている。 - 今後の開発の方向性や、理想とするソフトロボットについてお聞かせください。
- VRの研究では、アバタの姿を変えることで自己肯定感が高まったり、他者に共感できるようになるという研究が多くなされています。ザ・ラボで展示しているソフトロボットは、自分自身や他者とのコミュニケーションを変えるために、実世界において何らかの変化をもたらすことができるのではないかと考えています。例えば、気合を入れたい日は化粧やファッションを頑張るように非常に大きく美しいロボットを作る、遠隔にいる人が接続するソフトロボットはなるべく小さく作るなど、実世界でのアバタ表現の自由度が高まり、他者のイメージや自己のイメージを上手く表現・制御できるようになっていくと新しい可能性が開くと思います。生活の中で、心の変化や行動の変化を自分で楽しくデザインできるソフトロボットが理想です。
※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。
木曜サロンとは
幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。
ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。