サロンイベントレポート
木曜サロンレポート
- テーマ:
- ビジネスはビジネス・スキームから生まれない-本で人とつながる「まちライブラリー」の取り組みから考える社会的事業とは?-
開催日: 2022年10月13日
○活動の主旨、目的○
まず初めに、これまでの活動紹介として、森ビルの創業者が立ち上げた、生涯教育事業「実験的アーク塾」の事務局として、さまざまな企業・研究者などを招き活動開始。元々は20坪ほどの小さな規模だったが約15年で3000坪ほどに成長させたそうです。ただ規模が大きくなるにつれ、「顔の見える関係性」が欠落していると感じ、人の繋がりを生む場所の重要性を再確認するようになったとのこと。
そういった思いの中はじめた、まちライブラリーは利用者から寄託された本を集めた私設図書館として、寄贈された本に「感想カード」を付け、寄贈者と読者が感想をシェアできる仕組みを持たせ、まちライブラリーをスタート。はじめは小規模だったが、活動を継続する中で、賛同者の輪が大きくなり、カフェ、ギャラリー、オフィス、住宅、お寺、病院などの一角に本棚を置き、人の縁が生まれる場所として、現在、全国960件もの大小様々な場所でコミュニティが生まれているとのこと。
人々が自発的に活動し集まることが出来る場を作ることにより、企業がトップダウンで行う事業よりも、より多くの関係人口が生まれる場になったと礒井氏。今後の展開としては、緩やかに誰もが参加しやすい場を作り、緩やかに輪を広げていきたいと行きたいと考えていると締めくくられた。
ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール
礒井 純充 氏
まちライブラリー提唱者、森記念財団普及啓発部長
大阪公立大学客員研究員、経済学博士。森ビルで「六本木アカデミーヒルズ」をはじめ文化活動に従事。11年より「まちライブラリー」を提唱、全国約960カ所以上で展開。13年まちライブラリー@大阪公立大学で「蔵書ゼロ冊からの図書館」、「マイクロ・ライブラリーサミット」を実施、15年には商業施設もりのみキューズモールBASEにまちライブラリーを開設し、7年間で93万人以上来館するまでに育てる。グッドデザイン受賞。著書に「本で人をつなぐ まちライブラリーのつくりかた」(学芸出版)他。
ナレッジドナーインタビュー
- まちライブラリーの事業を通して気づいたことについてお教えください。
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気づいたことはたくさんありますが、中でも一番強く感じたのは「社会の変革を目指して高邁な理想を持ってまちライブラリーに取り組む人よりも、自分自身が楽しんでいる人の方が結果を出しやすい」ということです。
一般的には目標に向かってまっすぐに進んでいけば答えが出ると思いがちですが、世の中とは複雑でそういうものではないですよね。普通は組織としての目的やゴールは何かということを問いただそうとしますが、目的やゴールを持たず、単に「そこにいることが楽しい」「それをすることが面白い」と、自らの気持ちに素直な活動をしている人の方が成功しています。これが一番大きな気づきです。私自身が、やる以上は意味があるべき、目的を持つべきという気持ちが強かったので予想を裏切られました。 - 社会課題に対する取り組みについて、どのようにお考えですか。
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私は、社会課題ではなく「自分課題」だと考えています。自分が人生を楽しめる状況にならない限り社会は良くなりません。社会課題型の組織が必要だとよく言われますが、企業や行政の視点から考えるとそうなりますが、実際には社会課題追求型の組織だけでは社会課題は解決しません。追求すべきは「自分課題」です。
資本主義社会はこんなに発展しましたが、それは資本主義社会を作ろうとたからではありません。アダム・スミスの『国富論』に「今宵我々が食事できるのは肉屋や酒屋やパン屋の好意からではなく、彼らが自分の利益を追求しているからである」という言葉があります。つまり、肉屋や酒屋やパン屋に対して社会の目標を問うのではなく、彼らの立ち位置で利益を追及させることによって、結果的に資本主義社会が作り上げられたとも言えます。もちろん道徳哲学者であったスミスは、他者からの評価を気にし、他者に好意的な共感を得る気持ちが誰にもあり、それで社会の秩序が守られていることに注目していました。このように人の心模様が複雑に絡み合って社会形成がなされるとこを、スミスは指摘したのです。
多くは社会を良くするためではなく、生活の向上や自己実現のために会社を作りますよね。こうして「自分課題」に取り組んでいくうちに、結果として社会課題の解決につながっているのです。そのためには個人の力を信じ、その力引き出すことが、我々にとって大事なのではないかと思います。
※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。
木曜サロンとは
幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。
ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。