サロンイベントレポート
木曜サロンレポート
- テーマ:
- 日本の企業は博士学位がお嫌い?-博士人材を育成する意義と方法-
開催日: 2022年11月17日
○活動の主旨、目的○
まずは国内の博士人材を取り巻く現状について、過去のグラフを参照しながら、大学の法人化やポスドク制度の導入などによる影響で博士人材が減少したことについて解説頂いた。
現在、国を挙げて博士人材の増員を目指す理由として企業の競争力向上があること、そこから見える日米の企業における博士人材への評価の大きな違い、さらに日米の大学の仕組みの違いから教育観の違いが垣間見えた。最後に桑畑氏が考えるこれからの博士人材育成のための方策として、大学と企業との共同研究を軸に“社会人ドクター”育成の枠組みを整備することの意義についてご紹介頂いた。
ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール
桑畑 進 氏
大阪大学 大学院工学研究科 研究科長 教授
1982年3月に大阪大学工学部応用化学科を卒業し、大学院の修士課程、博士課程を経て、1986年4月に大阪大学助手となり、その後、講師、助教授、そして2002年4月に教授となり現在に至るという、(今では絶滅危惧種である)阪大生え抜きかつ阪大一筋の教員。専門分野は界面電子移動の高効率化と機能化、薄膜および表面界面物性関連、ナノ材料科学関連。以前は、趣味は「研究室の学生との真面目な議論と超ふざけた世間話をすること」と言っていたが、今年4月に工学研究科長になってからは、さらに「事務職員との真面目な大学運営の議論と超ふざけた世間話」が加わった。
ナレッジドナーインタビュー
- 日本の優秀な学生が、日本より卒業後の待遇が充実している海外の大学や大学院に進学するという事例に関してどのようにお考えですか。
-
学生が海外に出ていくのは大賛成です。世界を見なければ、日本のことも世界のことも分かりません。ただ、今の日本の学生は海外に行くのを嫌がる人が多くて残念ですね。これは今に始まったことではなく、私自身もそうでしたが、語学ができないという理由から海外に行くのをためらってしまうのです。そこが日本人の良くないところだと思います。
私の場合、実際にアメリカに行ってみると、語学力よりも人間力の方が重要だとわかりました。しかし、そのことに気付いた時にはすでに30代で、アメリカで教授を目指すには遅すぎました。そのような経験もあって、今の若い人たちには外国で勉強したいならぜひ行ってほしいと思っています。
優秀な人材が海外に流出することは日本にとって不利益ではないかという意見もありますが、その思考はドメスティック過ぎて、私の感覚とは相反します。世界で活躍する人には心から声援を送ります。 - 日本と同様に中国も博士学位取得率が低いとのことですが、日本と中国の違いはありますか。
-
人口の多い中国の博士学位取得者は、数としては多いですが、人口比率からすると少ないということになります。中国は、人口に対して大学の数が全く足りておらず国内の大学で学べる人数が限られているため、博士学位を取る人の割合が少なくなるのです。そして結局、国内で学位を取得できない人たちは海外へ行ってしまいます。海外で取得した学位は、中国ではなく留学先の国のものとしてカウントされますので取得率の低さは変わりませんが、海外での取得分も合わせると非常に大きな数になるでしょう。
日本と中国の大きな違いは、海外に出た人材への対応の仕方です。日本は送り出してそれっきりですが、中国はその後の実績を追って優秀であれば高待遇で自国に呼び戻します。この点も日本における大きな問題で、博士学位取得者が増えない要因のひとつだと考えています。
※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。
木曜サロンとは
幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。
ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。