サロンイベントレポート
木曜サロンレポート
- テーマ:
- フォントが変わると世界が変わる -モリサワが取り組むフォント人口の拡大-
開催日: 2023年3月16日
○活動の主旨、目的○
まず森澤氏よりモリサワの歴史についてお話いただき、その後阪本氏からモリサワフォンツについて解説いただいた。モリサワフォンツは約2000種類あるが、世相を反映したような開発ができないかと考え、文字の形をわかりやすく、読み間違いをせず文章が読めるようなユニバーサルデザインに関する文字のデザイン(ユニバーサルデザイン書体)に10年以上前から取り組んでいる。
ユニバーサルデザイン書体の開発をする中で、読み書きに苦労する子供たちがいることを知り、教育目的で使用できるフォントとしてUDデジタル教科書体の開発をした。これは弱視や文字の強弱が過剰に気になるなど、読み書きに何かしら負担を感じる人も読みやすいように作られたフォントだが、UDデジタル教科書体を使用することで学習効率が向上し、成績が上がったという結果が出たことでハンディキャップがあるなしに関わらず役に立つことができたとのこと。
また、現在は企業の個性を出せるようなオーダーメイドで文字を作るカスタムフォントの提供や、共生社会を目指してパラスポーツの支援も行っているというお話も伺った。
ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール
森澤 彰彦 氏
株式会社モリサワ 代表取締役社長
1986年、株式会社モリサワ入社。若手時代に渡米し、Adobe社と協業。新規事業であるDTPビジネスに取り組む。2000年に取締役営業本部長、2006年に常務取締役執行役員営業本部長、2007年に専務取締役執行役員営業本部長を歴任。2009年5月より現職。
阪本 圭太郎 氏
株式会社モリサワ ブランドコミュニケーション部 部長
2008年入社。「UD書体」や「TypeSquare(Webフォント)」などの新規プロジェクトの立ち上げを担当。2012年には書体のコンテスト「タイプデザインコンペティション」を再開し、国内外から新しいデザインを募る。近年は書体を軸にしたプロモーション活動を多方面に展開。
ナレッジドナーインタビュー
- 書体の開発にあたって、どのように情報収集をされていますか。
- 阪本氏:書体デザインは大きく分けて、市場調査や企画立案をするタイプディレクターと、実際に書体を形にしていくタイプデザイナーの2つの職種で担当しています。ディレクターは、例えば街歩きをしたり、大量の本の表紙を見たりといったフィールドワークを通じて、デザインの潮流を踏まえた書体のコンセプトを決めていきます。また、お客さまからのご意見やご要望を反映することもあります。デザイナーは、国内外の事例に触れ、新しい発想を取り入れながら、書体が魅力的なものになるよう日々研究しています。書体ごとにチームを組み、その書体に必要な文字数を制作していきます。その後、フォントが機能するためのエンジニアリングや品質チェックを経て、初めてフォントが完成に至るのです。 これまでモリサワは、明朝体・ゴシック体のような定番の書体を通じて知っていただいたり評価いただいたりすることが多かったのですが、近年では様々なニーズに対応できるデザイン書体も充実しており、多くの方にご利用いただいています。
- 今後の目標や展望をお聞かせください。
-
森澤氏:ユニバーサルデザインで世界を変えたいと思っています。 ディスレクシアなどの障がいについてあまり知られていないかも知れませんが、UDフォントに変えることで読みやすさが改善するという検証結果が出ています。今はSNSや動画サイトで色々な情報を発信できる時代ですので、表面化していない障がいのある方々への配慮の大切さなどを伝えていきたいです。視覚に何らかの障がいのある方は国内だけでも100万人から200万人いらっしゃるそうですが、明確に特別な支援が必要な方と健常と呼ばれる方の狭間で、取りこぼされている方々がいらっしゃいます。加齢による視覚の衰えも日常生活に大きく影響します。情報発信される皆さまが、UDフォントを使うことや文字に配慮するだけでも救われる人がいるということを意識していただきたいですね。
阪本氏:現在UDフォントを、中国語、韓国語、アラビア語、タイやインドの言語に展開しています。海外ではユニバーサルデザインという概念が日本ほど一般に浸透していないと実感しています。日本で発展したUDフォントの考え方を広くお伝えしながら、身近な書体を変えるだけで世界が大きく変わるということを、少しでもビジネスの中で実現していきたいと思っています。
※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。
木曜サロンとは
幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。
ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。