サロンイベントレポート
木曜サロンレポート
- テーマ:
- 組織と意思決定のカラクリ -Google・大学・NATO軍を事例に-
開催日: 2023年7月13日
○活動の主旨、目的○
今回は組織について、集団の意思決定について、個人の意思決定についてお話いただいた。
まず組織について。組織を理解するための3つの視点、情報ネットワーク、権限配分、心理的安全性について説明。そのうえでミスの少ないチームはどんなチームなのかを、Googleや大学、ロシア軍とウクライナ軍の組織を例に挙げて解説いただいた。
次に集団の意思決定について。集団の意思決定は個人の意思決定をどう集約するかで導く方向が変わるということ、「三人寄れば文殊の知恵」が大間違いであること、そして集団浅慮について解説。間違った意思決定をしないためには反論や疑問を言うことを許す雰囲気を作ること、上司が自分の意向を言わないこと、独立した違うチームで検討決定し互いに評価することが必要であると教えていただいた。
最後に個人の意思決定について。個人の意思決定は集団の意思決定の基礎となるが、個人の意思決定をする際はどうしても認知バイアスが入り込んでしまう。そのため、意思決定の質を上げる必要があるとのこと。
現在、個人の意思決定の質を上げる教育プログラムを構築中で、これをビジネスや世界で役立てたいとお話された。
ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール
藤田 政博 氏
関西大学 社会学部社会学科心理学専攻 教授
1973年生まれ、神奈川県出身。東京大学法学部卒業、同修士課程修了。
北海道大学大学院文学研究科修士課程修了、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。
政策研究大学院大学准教授などを経て、現在は関西大学社会学部心理学専攻教授。
専門は、社会心理学、法と心理学、法社会学。
ナレッジドナーインタビュー
- 「集団意思決定」という研究テーマに対して、どのようなところに面白さを感じていらっしゃいますか。
- 「個人で決める」と「集団で決める」は、どう違うかということに一番興味を持っています。例えば、個人で決定するのではなく話し合いをする場合、どうすれば話が上手く運ぶのかというようなことです。コミュニケーションの取り方やパターンによって集団の意思決定の結果が変わったり、意思決定の質が上がったり・下がったりということがあります。個人の意思決定においては起こりませんが、人と人が言葉を介してコミュニケーションを取ることが集団意思決定に影響を及ぼすという点が面白いと思います。
- ご自身が集団意思決定に関わる際に、意識されていることがあれば教えてください。
-
私が関わる集団意思決定で特に注意が必要な状況といえば、主に学会運営の場ですね。学会は、異なる大学等に所属する様々な研究者たちが集まってボランティアで運営しています。学会に入る人は通常、大学や公的組織や企業など、別に所属する組織があるので、学会を辞めても所属先がなくなって困ることはありません。また、学会内の役職を引き受けるかどうかは自由です。そもそも会員とならなくても研究はできますし、ある学会を辞めても類似のテーマを扱う別の学会に入れば、容易に情報や人的ネットワークが得られますので、ある学会の会員でいるかどうかは完全に任意です。学会の役職者や学会員に対する報酬は出ないので、学会を辞めても経済的に困ることはありません。したがって、学会には人事権、給与、所属先がなくなることをちらつかせて他の構成員に強い権力をふるえる人はいません。そのため、他の種類の組織のように上層部が予算も人事もすべて決めるということはなく、何事も組織内で話し合って決めることになります。このようなフラットな組織では「みんなに納得してもらうこと」が非常に重要です。最終的には多数決で決めることになることがあっても、できる限り多数決を使わずに、なるべく全員の合意を取り付けることが大事だと考えています。
このような前提がよく理解されていないと、学会でも他の組織のように権力を持った人が決めるのだろうと考える人も出てきます。たとえば、学会の運営に関する会議で何か提案がなされた場合、言い出しっぺが何らかの「長」という肩書きを持っていると(理事長、委員長など)「長」という肩書きを持った人が全て決めればよいと考える人も出てきます。しかし、それでは「フラットな組織である故に自由な意見が許される」学会組織の前提に背いて、場の破壊につながりかねません。学会は、従来の通説の考え方や不十分な点を批判し、それを覆して新たな知見を提示することでその分野における知の発展に貢献する組織です。その知は人類全ての共有財産になります。学会において、ベテランや重鎮とされる人は長いキャリアと学術への多大な貢献があるためもちろん尊敬されますが、そのような人が出した意見に対しても率直に意見を表明でき、あるいはキャリアの浅い研究者の提示した知見でも、学会内での議論で承認されれば、その分野における新たな知識として共有財産となることができる状況を用意しておくことが、学会として非常に大事なことなのです。このように、学会では研究上の議論において常にフラットな人間関係が必要であり、そのような関係をつくる土壌となる環境を維持する事が必要です。そのため、学会では組織運営においてもフラットでなければなりません。なぜなら、普段の運営は誰かのトップダウンで、研究上の議論だけフラットにやろうといっても、そのようなことはできないからです。したがって、学会のようなフラットな環境が必要な組織では、発案者が何かの「長」であっても権力をふるう立場にはなく、全員で意思決定をしなければならず、しかも構成員がそのことを理解しておくことが必要なのです。なぜなら、権力はふるう方だけでなく、従う方の行動によっても生まれるからです。私も何かの「長」を学会で拝命することがありますが、その際には以上のことを意識づけるように気をつけています。
※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。
木曜サロンとは
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