サロンイベントレポート
木曜サロンレポート
- テーマ:
- Discover Bookstore -半世紀書店員が語る書店との付き合い方-
開催日: 2024年4月4日
○活動の主旨、目的○
現在、本屋業界は読書離れの影響を受けつつあります。若者の約6割が1年間に本を読まない傾向があり、SNSや動画サイトの普及が一因とされています。逆に電子書籍の利用は10代女性を中心に増加しており、コミック市場では電子書籍が約7割を占める状況になっています。
そのような状況の中、書店数は減少傾向にあり、中小規模の書店が特に影響を受けているとのこと。
井上氏は町の書店の魅力を伝えていきたいと語り、本屋の魅力として、話題の書棚や手に取って内容を確認できるリアルな体験、特典付録や個性的なサービスなどが、オンラインにはない魅力だとお話された。自分に合った本屋や書店を見つけることを楽しんでもらい、人生を変えるような本との出会いをぜひ体験してほしいと締めくくられた。
ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール
井上 哲也 氏
高坂書店 営業本部 相談役
NPO FM GIG書籍部
大阪ほんま本大賞実行委員
14歳中学2年の時に近所の駸々堂書店南千里店にてアルバイトを始め、高校卒業までの5年間皆勤。
中学時代に採用してくれた店長と再会をきっかけに大阪駸々堂書店に就職。
鶴橋の高坂書店が八尾に店舗を展開する折りにお声がけ頂き、立ち上げ店長として転職。その後、営業本部長を務め現在は営業本部 相談役を務める。
書店歴通算50年を越え現在は、業界への恩返し?の為、大阪ほんま本大賞(OBOP)実行委員や京都のインターネットラジオ局 fm GIG 代表の冴沢鐘己氏と組んで本を紹介する番組を放送中。
ナレッジドナーインタビュー
- 本の最大の魅力はなんだと思いますか?
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語弊があるかもしれませんが、私は『本=文芸書』という認識を持っています。もちろん実用書やビジネス書なども立派な本ですが、それらは例えるなら風邪をひいた時に風邪薬を飲むように、症状に合わせて服用する治療薬のようなものだと思っています。対して、文芸書というものは基本的に嘘の話です。
よく言えば創作、言い方を変えればただホラを吹いているだけの話しとも言えます。
でもそんな文芸書を読んだことによって人生が変わったという人は結構多いですよね。
「あの小説に感銘を受けて人生が変わった。」などといった話をよく聞きます。このように、本の一番の魅力というのは、時間潰しの道具で本来は何の役にも立たない物であるにも関わらず、人の人生を変えてしまう力を持っているところだと思っています。 - 現在の活動内容について詳しくお聞かせください。
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現在携わっている主なものは、「大阪ほんま本大賞」と「FM GIG」での活動です。FM GIGは京都に本局があるインターネットラジオ局です。私の友人であり熱心な読書家でもある代表の冴沢鐘己に、読書離れが進んでいる今少しでも多くの人に本を知ってもらいたいと話をしたところ、うちのチャンネルで本を紹介したらいいやんということで、広報活動をやらせてもらっています。私が企画立案して放送している番組のほかに、「関西本好き交流会」という作家、出版社、本屋、読書家等といった本が好きな者同士の交流会を年に4回開催しています。毎回ゲスト作家さんが来てくれるので、間近で作家と読者が話をすることができる貴重な機会です。
読者は作家がどのように作品を書いているかを知ることができますし、作家も読者の(タス 生の)声を聞くことができてみんなが楽しめるイベントです。
もう一つの「大阪ほんま本大賞」は、今年で設立12年目になります。毎年7月25日にその年の受賞作品を発表して、その作品の出版社に本の売り上げの5%ほどを出資してくださいと協力をお願いしています。そうして集まった資金を使って、養護施設の子供さん達に欲しい本をプレゼントする活動をしています。現在、大阪府下にある75箇所の児童養護施設を訪問して、子どもたちが欲しがっている本のリクエストを聞いて、その本を買って持っていくのです。例えば、3年前には「ソフトボールのルールブックが欲しい」という小学生の男の子がいました。ねだる事に慣れていなくて、ソフトボールの本なんて僕以外読まないからダメですよねと遠慮していたのですが、「僕らは君が欲しい本を持ってくるって言ったやん」と、リクエストしてくれたルールブックをプレゼントしました。そうしたら3ヶ月後にその子から「おかげさまでレギュラーが取れました」と、事務局宛にお礼の手紙が届いたのです。実行委員みんなで泣きました。こういう活動を通じて、未来の読書家を育てていきたいです。このほかにも、最近は兵庫県明石市のライツ社という出版社から出ている作家・知念実希人さんの児童書「放課後ミステリクラブ」という推理小説の販促応援にも力を入れています。知念氏の「小さい頃に面白い本と出会ったら、その子はきっと本が好きになってくれる。未来の読書家への種まきをしたいという考えに共感して、 あちこちの書店を訪問しては販売促進活動をしています。私自身、本が好きだという理由で半世紀もこの業界に携わることができました。これからの活動はこの業界への恩返しだと思って取り組んでいます。
以前にある出版社の社長から言われた『読書は道楽になる』)ではなく『趣味』であり続けてほしいと思っています。私の活動を通じて、本を好きになる方が一人でも増えてくれたら嬉しいです。
※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。
木曜サロンとは
幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。
ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。