サロンイベントレポート

木曜サロンレポート

テーマ:
大阪からスタートアップを!-起業とビジネスマッチングの最前線-

開催日: 2024年8月8日

○活動の主旨、目的○
スタートアップについて(加藤氏)
スタートアップは創業から間もない企業を指すが、多くは創業から5年以内に消滅してしまう。しかし、イノベーションのインパクトや雇用面、成長率の高さから経済効果が大きいと考えられるため、政府の支援も進められつつある。
日本のスタートアップの数は圧倒的に少ないだけでなく、地域間格差も顕著であるため、最近では地域の環境として何が大事かを示すスタートアップ・エコシステムが注目されており、起業するには地域のサポート環境があるかどうかが重要で、地域の様々なリソースを組み合わせることで起業活動が起こるということも明らかとなっている。地域間の格差をなくすには、長期的な観点における環境整備、大学とのリンケージの促進、政府が環境整備の役割を担うことが必要とお話いただいた。
また、スタートアップの成功には、起業家の持つ資源や企業の特性、創業後の戦略が必要で、特に創業時にどれだけ資源を集められるかが重要で、この資源が企業特性や戦略に大きく影響を与えるため、スタートアップが成功するか否かは、ほぼ創業時に決まるとお話されていた。

ビジネスマッチングについて(安田氏)
マッチングには人と組織、会社と求職中の学生、スタートアップ企業とベンチャーキャピタルなど、いろいろなマッチング現象を統一的に扱うような数学的議論があるとのこと。
マッチングを効率的でブロッキングペアを生まないようにするには、GSアルゴリズムが効果的であると考えられ、まず第一希望を選び、その後選ばれた側が最も希望順位が高い相手をキープし、残りをリジェクトする。リジェクトされた相手は次のラウンドで第二希望にアプライする。このプロセスを繰り返し、リジェクトされる人がいなくなった瞬間に最終的なマッチングが確定するという仕組みで、この方法であればビジネスマッチングにも活用できるかもしれないとお話いただいた。

ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール

加藤 雅俊 氏
関西学院大学 経済学部 教授

関西学院大学経済学部教授。学位:博士(商学、一橋大学)。研究分野は、スタートアップ、アントレプレナーシップ、イノベーションなど。スタートアップ企業に関するデータを用いて、エビデンスに基づいた実証的な研究に従事している。著書に『スタートアップとは何か―経済活性化への処方箋』、『スタートアップの経済学―新しい企業の誕生と成長プロセスを学ぶ』(いずれも単著)。

安田 洋祐 氏
大阪大学 経済学部 教授、株式会社エコノミクスデザイン共同創業者

大阪大学経済学部教授。学位:Ph.D.(経済学、プリンストン大学)。
専門はゲーム理論、マーケットデザイン。政府の委員やテレビのコメンテーター(関テレ「newsランナー」、読売テレビ「ミヤネ屋」)としても活動。近著に西田亮介氏(日本大学教授)との対談本『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』がある。他にも、最新の経済学で「すでに解決」しています。』(共著)など。

ナレッジドナーインタビュー

  • お二人とも経済学部の教授でありながら、現在さまざまな活動をされていらっしゃいますが、きっかけとなった出来事があったのでしょうか?
  • 安田氏:
    経済学というとビジネスやお金に関する話題を期待されますが、大学教員の多くはビジネスの実務経験のない人ばかりです。私自身もかつてはそうだったので、何を話しても机上の空論だと思われてしまいがちでした。少し悔しいなと思う一方で、確かにビジネスの実績や経験がないと相手には刺さらないだろうなということも理解できました。
    そこで、実際に自分がプレーヤーになって、経済学がビジネスの世界でどこまで活用できるかチャレンジしてみたくなった、というのが活動を始めた一番のきっかけになります。
    それに加えて、本日の冒頭でもお話ししたように、経済学の中にはビジネスに活用できる知見が沢山埋もれていると長年感じていたので、実際にどれくらい実現可能なのかを試してみたかったという動機もあります。これについては、それなりに使えるなという手応えを日増しに強く感じています。

    加藤氏:
    私は主にスタートアップを支援する側の政策的な観点で経済学を研究しています。
    安田さんもお話ししたように経済学は机上の空論とよく言われますが、今は経済学を理解することで政策に効果的な成果を得られることが、研究の成果で分かってきています。
    この研究成果を行政機関の政策担当者を含めできる限り多くの方に知ってもらい、現実社会に活かしてもらいたいと思ったことが、活動を始めたきっかけです。
    実際、政府の委員会であっても、経済学の学術的な知見を知らないままに政策の意思決定が行われてしまうことがあり、残念で悔しいことだと思っています。
    研究で分かったことを、今後より一層多くの方々に知ってもらうきっかけ作りに努めていきたいと思っています。
  • 今後の展望についてお聞かせください。
  • 安田氏:
    日本の若い人たちの働き方で、世界と比べて一番異なる点は何かと考えると、それは「新卒の一括採用」だと思います。
    大学を卒業して間もないうちに一流企業や面白いスタートアップ企業に就職できたり、インターンシップを経験できる国はほかにありません。
    海外では大学を出たばかりの若者は全く使い物にならないとみなされるので、しばらく下積み経験を積むか、大学院に進学してより専門的なことを学ぶしかありません。そうして即戦力人材にならないと、良い職場ではなかなか雇ってくれないのです。
    日本の若い人たちは非常に恵まれています。だからこそ、よその国では若いうちに経験できないような大きな組織での仕事経験や、日本のベンチャー企業だからこそ任せてもらえる大きい仕事の経験などを武器に、日本ならではの環境をプラスに活かして自分の可能性を追求していって欲しいなと思っています。

    加藤氏:
    本日も少しお話した内容ですが、起業活動というものは周りの支援や社会全体の理解が重要になってきます。起業家個人で頑張ったところでうまくいかないのが現状です。
    社会全体が、起業家に対する理解や起業活動に対してある種のリスペクトを持ち、活動を活性化させていく意識を持つことが重要であると感じています。
    そうして少しずつ、起業というものが仕事の選択肢の一つとして考えられるような文化・社会になっていけばいいなと思っています。

※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。

木曜サロンとは

幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。

ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。

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