サロンイベントレポート

木曜サロンレポート

テーマ:
文化的景観から見る未来の都市デザイン

開催日: 2024年9月12日

○活動の主旨、目的○
日本では、建築、公共空間、それぞれがバラバラに計画されており、都市空間そのものを構想していくのは難しい。文化的景観が、「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地でわが国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」と定義されているように、バランス、風土、地形、歴史などに基づいたものがその景観にはあり、必ずしも色や形で景観がよくなるわけではない。地域の営みと自然の相互作用によって調和していることが良い景観であると考えられる。
都市においても地域の風土、自然、環境といったものと折り合って生きてきた。つまり、都市における文化的景観は、都市の成り立ち、その場所の成り立ちを読み解くということであり、その読み解いた中に何を形成すべきなのか、この都市がどんどん変わる中で何をその場所性として維持するのかを探していくということは、その都市の文化的景観の一つの取り組みだと考えられる。空間デザインは環境や景観の変化の持続可能性をどう作り、地域の価値をどう更新していくべきかというのが重要。無理に解かない、解けないものや解いてはいけないもの、そういった地域の価値の更新がこれからの地域づくりでは大事になってくるのではないかとお話いただいた。

ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール

小浦 久子 氏
奈良文化財研究所 文化遺産部景観研究室 客員研究員

大阪大学人間科学部卒。建設コンサルタント会社勤務等を経て、1992年大阪大学工学部助手、1997年准教授、2015年神戸芸工大教授。景観法制定時に関わり、2005年から国土交通省社会基盤整備審議会委員。芦屋市をはじめ多くの自治体の景観行政を支援し、景観計画の使い方の工夫を広げてきた。2006年の都市関連の文化庁調査以降、四万十川流域、京都市、岩国市等の文化的景観の計画策定を支援してきた。専門は都市計画・アーバンデザイン、博士(工学)、技術士(都市および地方計画)

ナレッジドナーインタビュー

  • 景観協議が難しいということでしたが、協議を進めていく上で重要だと思う要素は何でしょうか?
  • 開発や公共事業の協議では、対象不動産だけでなく周囲環境との関係性まで視野に入れた協議を行うことが重要です。
    しかし多くの場合、経済的な制約や利益優先の姿勢が協議を阻んでしまいます。
    特に民間の事業では利益が最優先され、住みやすさや環境への配慮は後回しにされがちです。
    最近ようやく、それでは売れないという状況になってきて、これまでのように「床で儲ける」のではなく、グラングリーンのように「環境で不動産の価値を維持する」ことを選択する動きも見られるようになりましたが、それでも周辺環境との繋がりを考慮した開発計画は少ないです。
    また、本日の講演の序盤でもお話したことですが、人々が「どんな街でありたいか、何が心地いいか、何が大事なのか」といったことを、自分ごととして考えることが重要です。
    私には関係ないと思う人ばかりだと、協議も進まずまちづくりも停滞してしまいます。
  • 一つの都市デザインにかかる期間はどれくらいですか。
  • おそらく10年が最低単位ですね。
    講演の最後にご紹介したドイツのルール地域は、計画作成だけで10年以上かかっています。その間も街は動いているので、計画の作成を進めながら既に決定した計画を実行していくのです。
    動きながら次の計画を立てて、進めていた計画を完成させた頃には別の計画が始まっているため、ずっと工事を続けているような感じになりますね。
    対して日本は、計画を作ってから実行して、また一定期間が経過したら次の計画を作成するといった感じです。ドイツのような、街の変化にうまく対応ながら計画を動かしていくということが得意ではないように感じます。
    基本的な空間を創るための教育方法やトレーニングも、国によってだいぶ違うと思います。
    都市の作り方も国によって違いがあり、文化が反映されているなと感じますね。

※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。

木曜サロンとは

幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。

ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。

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