サロンイベントレポート
木曜サロンレポート
- テーマ:
- 集中力を“見える化”する椅子?「SenseChairとディープテックの最前線」
開催日: 2025年9月4日
○活動の主旨、目的○
吉國氏は医療・IT・法医学と幅広い経歴を持ち、現在は大阪公立大学のスタートアップ創出・支援センターでも特任研究員を務め、産学官連携や研究の社会実装に積極的に取り組んでいる。
「SenseChair」は、座るだけで集中度や眠気、グループ内での傾聴姿勢や議論の活発さといった状態をセンシングできる椅子で、荷重センサや加速度センサを内蔵し、重心移動や姿勢をデータとして収集でき、USBやBluetoothによる通信にも対応している。現在、1台30万円程度で提供され、研究室や企業での実証利用が進んでいる。
応用範囲は広く、教育分野では生徒の非認知能力の評価や授業改善、オフィスでは研修や会議の活発度の測定、福祉施設では車いす利用者の褥瘡予防や姿勢改善への応用が期待されている。また、過去の研究では「眠気の検出」や「小集団議論における同調傾向の分析」といった成果も報告されており、学術的な裏付けに基づいた技術である点も特徴とのこと。
講演ではこうした開発背景や技術の仕組み、データ活用の可能性について解説があり、後半には実際にSenseChairを体験する時間も設けられた。参加者からは「自分の集中力がどう見えるのか」「職場や学校に導入するとどう変わるのか」といった視点で活発な意見交換が行われた。
ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール
吉國 聖乃 氏
大阪ヒートクール株式会社 / 大阪公立大学 特任研究員
和歌山高専、奈良女子大学(修士)を経て、近畿大学にて医学部法医学教室の専任講師を務めたのち、IT企業での勤務経験も持つ。現在は大阪公立大学にて、大学発ディープテックスタートアップの発掘・起業支援に携わっている。医療・IT・法医学を横断する知見と実務経験を活かし、研究の社会実装に強みを持つ。趣味はバイク。
ナレッジドナーインタビュー
- SenseChairの実装・研究にあたって、一番大変だと感じていることは何ですか?
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吉國氏:SenseChairはまだセンサーという位置づけでしかない部分が大きく、研究と製品化には大きく差があるなと日々感じています。企業は「面白い」というだけでは購入してくださいません。
我々の研究の成果であるSenseChairを、「売れる製品」にまで昇華させるために、消費ニーズの傾向や、どの層に需要があるか等を模索しています。改めて、研究を社会実装することの大変さを感じています。
高砂氏:私も概ね吉國氏と同じことを感じています。それ以外の部分で言うと、研究と売れる商品としての製品化を同時並行で進めていかなければいけない、という部分が難しいと感じています。
本日いただいた「探究学習は椅子で測れるのか」というご質問も、まさに需要は見えているものの、研究が追いついていない部分です。世間にニーズがない研究を進めてもいけませんが、ニーズを見つけてから研究を始めていては遅いという。このような部分に大変さを感じますね。 - SenseChairが最も実装できそうな場所はどこだとお考えですか?
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吉國様:直近は介護・福祉業界ではないかと思っています。将来的にはあらゆる企業のオフィスチェアがSenseChairになると思います。
高砂様:私も同じく、福祉業界は興味深い分野だと思っています。本日の講演でお話した「車椅子にSenseChairを装着して褥瘡予防」という試みも、リハビリ関係の研究者と一緒に取り組んでいくことが決まり、嬉しく思っています。
一緒に取り組んでくださる方が見つかるかどうかで、実装化に向けての動きは大きく変わってきます。
教育分野での活用も、我々の研究に興味を持ってくださる研究者がいらっしゃれば、一気に実装に向けて製品化が進むのかもしれませんが、まだ見つかっていない状態です。
オフィスの分野での活用については、企業さんから先にお声がけをいただき、そこに我々の研究を追いつかせるような進め方をしていますし、研究の実装化に向けた取り組みのプロセスにも様々な方法がありますよ。
※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。
木曜サロンとは
幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。
ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。

