サロンイベントレポート
木曜サロンレポート
- テーマ:
- 神様ジョアン、帝王ジョビン、女王アストラッド -ボサ・ノヴァで巡るブラジル音楽の世界-
開催日: 2026年7月16日
○活動の主旨、目的○
音楽のジャンルというのは、どこから始まったかあまりよく分かっていないが、ボサ・ノヴァの場合は非常にはっきりしており、1958年にアントニオ・カルロス・ジョビンが作曲し、ジョアン・ジルベルトが歌った「想いあふれて」という曲が最初のシングルで、そこから始まったとされる。この曲はボサ・ノヴァの曲の中でも最も美しい曲と言われている。
メジャー、マイナーの見分け方は1曲の最後が「ド」で終了するのが「メジャー」、「ラ」で終了するのが「マイナー」、他の音で終わると落ち着きがない感じがするため、これは鉄則であり音楽理論は基本的にメジャーで考えるという。
アントニオ・カルロス・ジョビンは1986年に一度だけ来日。ジョビン流のボサ・ノヴァの最終完成形のようなものを作り、その後7,8年で亡くなる。
ジョアン・ジルベルトはほとんど作曲をせず、古いブラジルの曲を取り上げてボサ・ノヴァのスタイルで再現しており、彼も2000年に70歳を過ぎて初めて来日したが、それまで日本公演に来なかった理由はすっぽかしてしまうような彼の性格上、リスクがあったとされる。実際、会場に40分ぐらい遅刻したり、途中瞑想したり…というエピローグもお話しされ、会場は終始和やかな雰囲気に包まれていた。
ナレッジドナー(知の提供者)プロフィール
柿木 央久 氏
株式会社太郎カンパニー 代表取締役
1990年東京大学教養学部卒業。専攻・表象文化論。
ボサ・ノヴァを卒論のテーマにし、1993年雑誌『ブルータス』ボサ・ノヴァ特集号「ボサ・ノヴァに想いあふれて」巻頭記事で音楽批評家としてデビュー。その後、家業である「大阪名物くいだおれ」グループ取締役。
2008年の同店閉店後、株式会社太郎カンパニーを設立して「くいだおれ太郎」に関する商標のマネジメントを行っている。また閉店を機会に上田正樹・有山じゅんじらとの縁で、音楽批評家としてのフィールドをなにわブルースに移す。2016年から「なにわブルースフェスティバル」にクリエイティブ・ディレクターとして参加。
ナレッジドナーインタビュー
- 柿木様の考えるボサ・ノヴァの魅力について改めてお聞かせください。
- ハーモニーの豊かさと繊細なリズム感、そして美しい音色がボサ・ノヴァの魅力だと思っています。ブラジル人はリズム感の良い方が多いと言われていますが、その中でも特に繊細なリズム感と正確な音程感覚に優れている人が演奏しないと、バランスが崩れてしまってボサ・ノヴァとしては成立しません。
- ボサ・ノヴァはどのようにして大衆が聴きやすい音楽になっていったとお考えですか。
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「ボサ・ノヴァといえばアントニオ・カルロス・ジョビン」と言われるほど、あの方以上の功績を残した作曲家はおそらくいないでしょう。彼の音楽は、非常に高度な音楽理論で作られているにも関わらず、聴く人にはそれを意識させず誰もが聴きやすいという、「複雑さと心地よさ」を両立できているのです。
本日お聴きいただいた、彼の初期から晩年にかけての作品は、主に「音作り」の部分が進化していきました。晩年の作品になるほど、基礎となるハーモニーは洗練され、音色もより美しく磨かれていきます。また、人気の高まりによって、バックバンドに優れた演奏家を起用できるようになったことも、その変化に大きく影響したのではないかと思います。
彼は、それまでにない心地よい音作りをしていったことで成功を収め、ボサ・ノヴァを大衆が楽しめる音楽へと発展させました。しかし、その音楽を支える「音作り」にはそもそも高度な音楽的素養が必要であったため、結果として誰にも容易に真似のできない、唯一無二の音楽となったのでしょう。
一方、ボサ・ノヴァ以前から存在していたクラシック音楽に目を向けると、ブラジルではバロック音楽を代表する作曲家であるバッハの作品が特に高く評価されています。バロック音楽やそれ以前の時代の作品には、メロディーの展開とともに楽曲全体の雰囲気が変化していく特徴がありますが、その感覚がもともとブラジル人の嗜好に合っていたのかもしれません。そうした文化的背景も、ボサ・ノヴァの発展を支えた要因の一つだったのでしょう。
実は日本人もブラジル人と音楽の好みが似ていて、転調を多用する音楽を好む傾向があります。多くの日本人がボサ・ノヴァに魅力を感じる理由も、そこにあるのではないかと思います。おそらく、日本は世界で一番のマーケットだと思いますよ。
現在、ボサ・ノヴァはひとつの完成形に到達した音楽だと言えるでしょう。そのため、今後ジョビンが築き上げたスタイルを大きく超えるような新たな進化が生まれる可能性は、それほど高くないのではないかと思います。
※木曜サロンレポートはナレッジサロン会員さまを対象としたイベントのレポートです。
木曜サロンとは
幅広い「知」に出会える、気付けるちょっと知的な夜、展開中。
ナレッジサロン会員様を対象に、毎週木曜日の夜に開催。幅広い業種業界から「ナレッジドナー(知の提供者)」としてゲストスピーカーを招き、専門知識や経験、取り組んでいるプロジェクトや生活の知恵まで幅広い「知」を提供。参加者同士の交流や会話を尊重し、自由で気楽な会話を中心としたカジュアルなサロンです。

