Interview

各界のスペシャリストにインタビュー。
意外な組み合わせで、OMOSIROI答えを探る。

Interview 鳥井信吾 伊吹英明 俯瞰力でひもとく大阪の可能性

開業10周年記念!スペシャル対談

二人のリーダーナレッジキャピタル

俯瞰力でひもとく大阪の可能性

うめきた2期が2024年に先行まちびらき、2025年に大阪万博。大阪が“未来都市”へ向けて大きく動いている今、経済産業省近畿経済産業局長と大阪商工会議所会頭という大阪・関西の経済・産業界を牽引するお二人の特別対談を実現!
仕事のアイデアを深める方法やライフスタイル、そして大阪が持つ未来への可能性について語り合っていただいた。

伊吹英明さん 鳥井信吾さん 対談風景
GUEST

経済産業省
近畿経済産業局 局長

伊吹英明

HIDEAKI IBUKI

東京都出身。製造産業局自動車課長や中小企業庁長官官房総務課長などを経て2019年7月から内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画・推進統括官に就任。2021年から近畿経済産業局へ。「新しいモノづくり」をテーマにした、2022年の「こたつ会議14回目」をはじめ、ナレッジキャピタルと同局の共催イベントも多数開催。

大阪商工会議所 会頭

鳥井信吾

SHINGO TORII

大阪府出身。サントリーホールディングス代表取締役副会長。サントリーの看板商品であるウイスキーの総責任者である3代目マスターブレンダーとしても知られる。創業者である祖父の「やってみなはれ」の精神を引き継ぎ、大阪に活力をチャージし続ける。2022年から大阪商工会議所会頭に就任。昨年は「ナレッジサロン」で開催された「特別サロン」にも登壇。

野村卓也さん

司会進行

一般社団法人ナレッジキャピタル
総合プロデューサー

野村卓也

実は、ナレッジキャピタルとお二人は、
深いつながりがあるんです。

伊吹さんが局長を務めていらっしゃる近畿経済産業局には、イベントの共催や、アワードに賞を出していただいています。鳥井さんにはイベントのご登壇や、ナレッジサロンの構想に開業以前からご助言いただくなど、共に大阪の未来にさまざまな青写真を描いてきました。そんなお二人と、次の10年へ向けた未来の大阪の話をしましょう!

–– 対談の会場でもある、ここ「ナレッジサロン」のライブラリーにはお二人の推薦図書を置いています。改めて、人生や考え方に影響を与えた書籍を教えていただけますか。

伊吹:私が積極的に本を読み始めたのは高校生のときからで、中でも印象深いのは産経新聞記者だった近藤紘一さんの『サイゴンのいちばん長い日』です。1975年、ベトナムの首都だったサイゴン(現・ホーチミン)の陥落前後の状況を一般民衆に焦点を当てて書いたルポルタージュなのですが、半分家族物語のようで。「外国」というものを実態を持って感じることが出来て、海外に興味を持つきっかけになった1冊ですね。

鳥井:私は最近、サントリー文化財団の理事で文芸評論家でもある三浦雅士さんの『スタジオジブリの想像力 地平線とは何か』に刺激を受けました。アニメーションの魅力について書かれた本ですが、「イノベーション論」ともいえます。昨今の日本は、イノベーションが不足していると思うんです。金融緩和で経済が復活した一面もありますが、成長に結びついていません。どうしたらよいのかと考えているときに、この本を紹介していただいて。中小企業のものづくりに限らず、サービス産業などでもイノベーションを起こすことが日本の本当の経済成長につながると思っているのですが、「失われた30年」で、多くの大企業がコストカットに走ったり海外に設備投資をしたり外国人を雇ったりで、国内での「人づくり」を軽視してきた。国内の必要な設備投資をせずに過剰に設備が余る…と迷走しています。そういう積み重なりがイノベーション力を弱めていることを、この本を読んでいると参考になります。

–– 具体的にどういうところが参考になるのでしょう?

鳥井:私の観点になりますが、この本の中では「人類は2回生まれた」と。1回目が20万年前、現生人類が誕生したとき。2回目は「個人」の誕生だとしています。イノベーションを重ねて生き延びてきた現生人類のありようを考えると、現在の資本主義は本質的なところに課題あるではないか。個人が築く「信用・信頼」が資本主義の本質にもかかわらず、現在では軽視されすぎているのではないかと。

伊吹:スタジオジブリは個性を大切にしている。「作る人の好き」を制限していないですよね。それがよいと感じます。プロデューサーの鈴木敏夫さんは東京でサロンのような場を持っていて、夜な夜ないろいろな人がそこに集まってきて話をするそうです。

サイゴンのいちばん長い日
『サイゴンの
いちばん長い日』
近藤 紘一 著
文春文庫
スタジオジブリの想像力 地平線とは何か
『スタジオジブリの
想像力
地平線とは何か』
三浦 雅士 著
講談社

–– お詳しいですね、ジブリがお好きなんですか。

伊吹:本省でメディアコンテンツを担当していた際に何回か伺ったことがあります。こうしたサロン的なところで雑談を重ねる中で、クリエイティブなアイデア・企画が生まれたりするんだなと感じました。

鳥井:それが大切ですよね。

–– 鳥井さんは、ナレッジサロンの推薦図書にウィンストン・チャーチルの『第二次世界大戦』(全四巻:河出文庫)を挙げておられますね。経営者が、影響を受けた偉人にチャーチルの名を挙げることも多いですよね。

鳥井:はい。ウィンストン・チャーチルは、ご存じ、イギリス第61・63代首相ですが、軍人でもあり作家でもあります。この書籍にはもちろんフィクションも混ざってはいますが、面白いんですよ。

伊吹:チャーチルは逆境にもめげない、むしろ逆境でこそ自分の意思を貫き通すイメージがありますね。

鳥井:チャーチルは失政もしていますし、うまくいくことばかりではなかった政治家です。そうした状況を書籍の中で「嵐の中を一人の男が歩いている。風に倒れてしまうけど、また立ち上がる。逆境の嵐の中で立ち上がるんだ」と夢想するというふうに書いていますね。その逆境にもめげない姿勢に、企業経営の面からも学ぶことや考えさせられることは多いです。
 伊吹さんの紹介された書籍はサイゴンの陥落についてですね。時代は違いますが、歴史的な視点という意味では少し似ていますね。

伊吹:そうですね。サイゴンなどの南側の国が、いかにして崩壊していったかを、現地で暮らして描いたルポですが、国が陥落していくのにたくましく生活している、自分の近くにいる一般の民衆の姿を描いています。政治家や軍人に焦点を当てたわけではなく、南側の市井の方に視点を向けた書籍なんです。

鳥井:興味深いですね。

鳥井信吾さん

–– 書籍から学び、自身の考えに落とし込んでいかれることは多々あるかと思います。お二人がそうして得た考えを深めるのは、どんなときですか?

伊吹:本を読むのは夜中が多いですが、週末など家にいるときには、まとまって資料を読みます。何かを思いつくのは自転車に乗ってぶらぶらしたり、シャワーを浴びたりしているときなんです。大阪はアップダウンが少なく自転車に乗りやすい街だから、アイデアが浮かびやすくていいですね。よく行くのは大阪城公園などです。

鳥井:シャワーの時間は、考えをまとめるのによいですね。古代の数学者のアルキメデスもお風呂でアルキメデスの原理をひらめいたという逸話があるように、刺激になるんでしょうね。私は、発表の原稿を考えているときに、あわせて考えが浮かんだり、朝に思いついたりしますので、すぐメモをします。20年間ずっとメモは続けていますが、効果があるのかどうかは今もわかりません(笑)

伊吹:でも、メモをとっている間に思考が整理されているんじゃないですか。それを清書し、まとめることでさらに思考が深まります。私もだいたいメモ帳を持ち歩いて、メモをとるようにしています。覚えていられないですしね。

鳥井:年齢的にそういうことも増えてきましたね。

–– 鳥井さんのメモとなると、とても重要なことが書かれているように思いますね。では考えを深めるのはどういった場所やときですか。

鳥井:考えを深めるには、神戸の自宅近くの川沿いをどこまでも歩きます。リラックスしながら散歩するのがよいように思います。現代のサラリーマンは忙しすぎる。会社を少し離れて「考える時間」が必要なのではないかと最近は思っています。今のサラリーマンに必要なのは、部長なしで会社や仕事が回る制度ではないかと思いますね。海外にはサバティカルという長期休暇制度もある。そういうご褒美ではなく、部長クラスあたりに1ヶ月の休暇をとることを業務の中に入れて、会社を離れて会社や仕事のことを含めて「考える時間」をつくったら、新しいアイデアが生まれるかもしれない。四半期ごとの決算があり、なかなか難しいかもしれませんが…。

伊吹:そういえば、星新一の短編小説で、「何をしてもいい3、4人」という設定がありました。彼らは何もしないのに食べるのに困らない。そうなると、思いつく限りの好きな遊びをしますが、しばらくすると自然に新しい遊びを考え出す。意図的に与えた自由な時間がアイデアを生み出したんですね。昔の貴族が暇にまかせていろいろ遊んでたらテニスやチェスもできたというし、そういう状態に置くと、何かできるかもしれません。もしかすると。

鳥井:一人じゃなく数人ってとこもキーですよね。

――星新一の小説といえば、近未来の話が多くありますね。最近ではそれらもずいぶん現実的になってきて、3次元の仮想空間「メタバース」やVRのようなものが話題です。そこでちょっと夢のある質問をお聞きします。もし、自由に過去も未来も往来できるタイムマシンができたら、いつの時代に行きたいですか?

鳥井:私は、過去に行きたいですね。20万年前の現生人類がどのように誕生したか、見に行きたいです。7万年前から今のような言葉が話せるようになったという説もあり、第一号の現生人類に会ってコミュニケーションをとってみたいです。もっとも、話が通じるかどうかはわかりませんが。

伊吹:私は未来に行きたいですね。50年後でも100年後でもよいので、日本はもちろん、かつて住んでいたイギリスと、妻の祖国であるタイの未来を見たいです。

鳥井:未来の日本にも興味がありますよ。衰退か、現状維持か、別の形になって再生するか? 今の経済成長は日本を中心に考えられているけれど、アジアやアフリカなどの他国との関係性はどうなるでしょうね。

伊吹:経済成長は、地球環境や社会問題とも大きく関係していますから、日本だけでなく世界中の仲間と未来をつくる姿勢が求められますよね。タイムマシンがあったら、将来、世界で日本がどんな位置にいるのか、そしてその中で大阪がどう機能しているのかを見てみたいです。大阪の未来については期待も多いです。

伊吹英明さん 鳥井信吾さん 対談風景

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