アーティストは、常に時代の本質的なテーマを抽出し、それを形にして、人々に問いかけます。そこから生まれたイノベーションはアーティスト1人のものにとどまらず、彼ら自身が触媒となって周囲の人々に働きかけ、社会に広がっていきます。
私たちは身体機能を補うためにテクノロジーを使うだけでなく、テクノロジーそのものに触発されて新たな身体の拡張を試みることができる時代に生きています。
「触発される身体展」で紹介するアーティストは、光るまつげやデータコントロールができるネイルチップなど、テクノロジーを用いたビューティー・グッズを開発するカティア・ヴェガと、3Dプリンタを使った電動義手の設計データを公開し、機能やデザインの選択肢が世界中に開かれていくプロジェクトを行う近藤玄大。

身体を拡張する彼らの展示とトークセッションを通して、今、必要とされるイノベーションとコミュニティ形成のプロセス、そのためのストーリーテリングについて議論します。

参加アーティスト

データコントロールができるネイルチップやつけまつ毛、ヘアー・エクステンションなど、テクノロジーを用いたビューティー・プロダクツの開発を行うアーティスト。現在、カルフォルニア大学デービス校デザイン学部の助教授でもあります。
彼女は伝統的な化粧品をインタラクティブなものに進化させ、スキンインターフェイスとして使うことで、私たちの身体に対する技術と身体拡張の手段を開拓し、ウェアラブルコンピューティングの世界に新しい領域を広げました。
“Beauty Technology”はPrix Ars Electronica 2015の[the next idea]部門にてHonorary Mention を受賞しました。

身体の拡張の手段として、データコントロールできるビューティー・グッズを開発するプロジェクト。ネイルチップやエクステンション・ヘヤーの他に、導電性のつけまつ毛"Chemical Eyelashes"、微笑みやウィンクといった顔の動きによって光をコントロールする"Kinisi"など、様々なグッズを開発しています。

Hairware

考え事をしているときに髪をさわる、この無意識の動作を外部から隠されたデジタルデバイス操作に変換するための、エクステンション・ヘアー・デバイス。

Beauty Tech Nails

ネイルチップにRFIDタグや磁石、導電性マニキュアを組込み、ピアノを弾く動作、日常的な動作、などをすることで、デジタルデータの操作を行なうネイルチップ型のデバイス。

電動義手の制作から、義手コミュニティの構築まで行なう義手カタリスト。
3Dプリンタを使いコストとデザインにおいて新しい義手制作と販売の方法を作った"handiii"、設計データのオープンソース化によって機能拡張の選択肢が世界中の開発者やデザイナーに広がった"HACKberry"、障害者の当事者・技術者・医療関係者のためのコミュニティづくりをサポートする"Mission Arm Japan / Agency Lab."。彼の活動は、プロダクトのイノベーションから始まり、コミュニティのイノベーションへとスケールアップし続けています。
"HACKberry" はPrix Ars Electronica 2016のDigital Communities部門にてHonorary Mention を受賞、同年のSTARTS PrizeのNominationにも選出されています。

HACKberry

オープンソース化されたデータで世界中の人が制作可能な電動義手。3D CADファイル、ソフトウェアコード、回路図、部品表を含むすべての技術データは、クリエイティブコモンズライセンスのもとで公開されています。世界中の開発者やデザイナーは、自分の地域の人々のためにこれらのデータを使って、複製しカスタマイズし改善することができます。

Agency Lab.

義手の利用者、技術者、医療従事者をつなぐコミュニティと、多様な義手制作のためのプラットフォーム。片手で遊べる剣のおもちゃ"Tokken Totten"、お皿を持つことに特化した義手"Image hand"、美しさを追求した義手"LINK<kata>"など様々なニーズに応じた多様な義手が生まれています。
※写真は"Tokken Totten"

アルスエレクトロニカ・センター
photo: Nicolas Ferrando,Lois Lammerhuber

オーストリア・リンツに拠点を置く、メディアアートの世界最高峰機関。毎年9月にアート・テクノロジー・社会をテーマに行われる「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」の他、美術館・科学館としての「アルスエレクトロニカ・センター」、メディアアートの最先端コンペティションである「プリ・アルスエレクトロニカ」、R&D機関である「フューチャーラボ」の4部門があり、日本からも多くのアーティストが参加している。

Ars Electronica Futurelabのアーティスト/リサーチャー。これまでインタラクティブアート分野における作品を多く手がけると共に、公共・商業空間での演出や展示造形、企業や大学との共同プロジェクトを行うなど幅広く活動している。