10月も半ばになり、野山が赤や黄色に美しく紅葉し始める頃、秋の食卓も一度に華やかさを増します。ポルチーニやトリュフに代表される茸類、栗や柿、ワイン用葡萄などが秋の食材の
代表ですが、特別な旬の食材として、この時期イタリアに来られる方にぜひ試していただきたい味覚があります。それは、新オリーブオイルです。地中海の国々の料理に欠かせないオリーブオイルはコレステロールを上げないオイルとして近年人気ですが、イタリア産の一級品食用オリーブも秋の大切な味覚の1つです。10月中旬から11月中旬まで、ここフィレンツェ近郊の丘でも、初物のオリーブオイルの収穫と生産が行われます。
絞りたてのオリーブオイル 摘みたての実 葡萄から作るワインと同じように、初物のオリーブオイルもオリーブの実の生産地域や、生産者、製造方法、その年の気候などによって味わいが大きく変わります。生産すぐのオイルが珍重されるのは、特徴的な強いオリーブの果実味、舌に残るぴりぴりとした心地よい辛味や苦味、美しいエメラルドグリーン色などの特徴が生産直後に最も強く表れるからです。その後、時の経過と共に、味はよりマイルドで均一に、色もグリーンから徐々に黄味がかっていき、緩やかながら最初の鮮烈な印象が薄れていきます。大小の生産者から何種類ものオイルを買ったり、裏庭のオリーブで作られたオイルを分けしてもらったりして、友人や職場の仲間で味比べやオイル自慢をする機会が多く開かれるのもこの時期です。塩と新鮮なオイルをパンにかけて食したり、野菜にかけたり、スープの表面にたらしたりと、シンプルな使い方がもっとも生きるオリーブオイルですが、その生産に至るまでには生産者によるとても繊細な心遣いが隠れています。一年を通じての畑の管理、収穫時の丁寧な摘み取りや不純物の削除、オリーブ果実の風味と新鮮さを保つための低温圧搾とその後の保存方法など、イタリア人の食物への真面目な姿勢がとても良く表れます。
柔らかな丘に囲まれたブドウ園とオリーブ園 取材のため、キャンティ地方の中心に位置する街パンツァーノ(PANZANO IN CHIANTI)に生産者を訪れました。中世にはすでにオリーブ生産が行われていた地域ですが、今回オイル生産工程の取材に協力してくださったのは300年ほどこの地で領地を管理されている貴族BALDASSERONI(バルダッセローニ)家。FATTORIA DI QUERCETO BALDASSERONI(ファットリア・ディ・クエルチェート)という農園を経営されています。現在はワインとオイルの生産を行っており、特徴的で滋味のある無農薬の栽培と生産を特徴としています。
実を無駄なく収穫する為ネットを敷き詰めている作業と不純物の除去の様子当日、少し曇り気味の11月初めの空の下で、黄色に輝く収穫後のワイン用ブドウ畑を背景にして、優しいオリーブグリーンの樹々の間で働く皆さんの作業を見学。現在では一部機械を使用するものの、丁寧な実の摘み取り作業風景は、街の中では普段見ることの出来ないイタリアの素顔を覗くようです。
オイル工場内の様子。オリーブの実の洗浄工程、圧搾撹拌の近代的な施設。絞りたてのオイルは輝くような緑色。摘み取りに続くオイル抽出作業は、一転して厳密な管理の下に現代的な圧搾機にて作業が進みます。最終工程で透明なエメラルドグリーンのオイルが勢い良く流れ出るのを見た瞬間、収穫前のオリーブの実を思い出して特別な感動を受けました。食材の生産過程を通じて、イタリアの豊かさをまた1つ知った貴重な体験でした。