冬の寒さが緩み、春の兆しがようやく感じられる頃、キルギスは「ノウルーズ(Nooruz)」の準備で活気づきます。ノウルーズは、古くからの伝統に基づき、春分の日と新年の訪れを祝う行事です。自然と精神性、コミュニティが融合したこの祝日は、文化的にも重要な日として何世代にもわたって祝われてきました。
ノウルーズはペルシア語で「新しい日」を意味し、3月21日の春分の日に中央アジア全土、中東、コーカサス地方の一部で祝祭が開催されます。キルギス人にとってこの日は、暦の上で春を迎える日以上の意味があり、再生と和解、そして人生の恵みに感謝を捧げる日として大切にされています。
ノウルーズの起源とイスラム教の影響
ノウルーズの起源は数千年前、中央アジアにイスラム教が伝わる以前の時代にまで遡ります。この祝祭は自然との調和を重んじ、終末思想と、光(善神)と闇(悪神)の永遠の戦いを信仰する世界最古の宗教のひとつ、ゾロアスター教の考え方に根ざしています。昼と夜の長さが等しくなる春分は、自然界のバランスと、闇に対する光の勝利を象徴する日です。そのため、ノウルーズは新たな始まりにふさわしい日とされているのです。
イスラム教が中央アジアに広まったのは7~8世紀のことで、それ以前から存在していた他の伝統と同じく、ノウルーズもイスラム文化に取り入れられて新しい形へと変化しました。今日では宗教色よりも文化的要素が濃い祭典となっていますが、「感謝・博愛・再生」がテーマとなっているこの祝日にはイスラムの精神が息づいています。
多くのキルギス家庭では、ノウルーズの日の朝は感謝の祈りを捧げ、新しい年への希望を抱くことから始まります。人々は、過去の恨みを忘れ、家族の絆を深め、恵まれない人々を思いやります。この風習はイスラム教の慈悲と団結の教義に由来するものです。
新年を祝う祭り
キルギスでは、みんな一緒になって陽気にノウルーズを祝います。準備は数日前から始まり、家庭では家の中を掃除して冬の間に溜まった汚れを一掃し、繁栄と幸運を招き入れるためのスペースを作ります。また、色とりどりの模様や、豊穣と再生のシンボルを施した伝統的な装飾が家や公共のスペースを彩ります。
3月21日の朝が来ると、人々はとっておきの晴れ着に身を包み、祭典に参加します。広場は伝統音楽や美味しいキルギス料理の香りに満ち、勇ましい馬術競技なども開催されます。年長者は新しい年の健康と繁栄、平和を祈って若者たちに祝福を与えます。
ノウルーズ最大のお楽しみといえば、みんなで共にする食事です。キルギスにおいて、食事は単に生命を維持するための活動ではありません。食事は絆であり、文化であり、先祖から受け継がれた大切な遺産なのです。この考えを体現し、ノウルーズの祝宴の主役となる料理がスモロック(Sumolok)です。
伝統の味、スモロック
キルギスのノウルーズに欠かせないスモロックは、麦芽、小麦粉、油などを大鍋で24時間ゆっくり煮込んで作ります。煮込んでいくと、褐色で甘いプリンのような料理が出来上がります。完成までに長い時間がかかるスモロックは、忍耐力と我慢強さ、そして重労働へのご褒美を象徴すると言われています。
スモロックはみんなで集まって一緒に作るのが伝統です。家族や友人、近所の人々が鍋の周りに集まって、話をしたり、歌ったり、笑い合ったりしながら順番に鍋をかき混ぜます。鍋の中に小さな石やナッツを入れる場合もありますが、器の中にこれが入っていた人には幸運が訪れると信じられています。
スモロックには様々な意味が込められています。麦芽は新しい人生を象徴し、健康と繁栄をもたらすとされており、長時間の煮込み作業には「成功と調和を達成するためには努力の結集が不可欠である」という意味が込められています。スモロックが完成すると、みんなで分け合っていただきます。まさにノウルーズの他者への思いやりと団結の精神を体現する料理ですね。
新しい年の始まりを祝うノウルーズ
ノウルーズは単なる祝日ではなく、キルギスの民族性を色濃く映し出し、その伝統の力強さを証明する日です。イスラム教伝来以前の風習に現代的な価値観やイスラムの教えを融合させたこの祭りは、過去と現在をつなぐ架け橋となっています。
祭りの会場には地元住民が集まり、馬に乗ってヤギの死骸を奪い合うキルギスの伝統的な競技、ウラク・タルティシュ(Ulak Tartysh)に興じたり、キルギス文化の中心的存在である英雄叙事詩『マナス(Manas)』の朗読に耳を傾けたりします。子どもたちは遊び回り、家族が集まって会場は春の訪れへの喜びに包まれます。
キルギス国民にとって、ノウルーズは自然の巡りに感謝し、人々との関係を育み、希望を胸に新たな1年を迎える大切な日です。人生は四季の移ろいと同様に光と闇、そして成長と休息のバランスで成り立っていることを思い出させてくれます。
3月21日が終わっても、新たな始まりと絆、受け継がれてゆく伝統の力を象徴するノウルーズの心温まる思い出は人々の心の中で生き続けます。
- 2025.03.24
- 春の訪れを祝うノウルーズ