• 2026.02.17
  • ウラク・タルティシュ:キルギスの伝統的騎馬競技
ウラク・タルティシュ(Ulak-tartysh)は、旅行者の間では「コクボル(Kok-boru)」の名でも知られるキルギスの伝統的な騎馬競技です。この競技の音を初めて耳にした人は、きっと雷だと思うことでしょう。雷鳴のように聞こえますが、実は馬の蹄の音なのです。この競技では何十頭もの馬が草原を駆け抜け、その光景は、猛烈な速さで移動する嵐のようにも見えます。騎手たちは身を低くかがめ、叫んだり笑ったりしながら、まるで運命と物理法則に挑むかのように闘います。
私は、この音を聞きながら育ちました。キルギスでは、コクボルは観て楽しむだけの競技ではありません。山の峠道が見分けられるように、そして冬に村の浴場から漂う煙の匂いをかぎ分けられるように、キルギス人はコクボルを本能的に理解します。そこには、遊牧民の記憶が息づいています。広々とした大地や馬との強い繋がり、そして「不可能に見えるものこそ、挑戦する価値がある」と考える不屈のプライドを体現しているのです。
海外からやって来た友人を案内する時には、「スタジアムで行われる整然とした競技や、プレーの合間に訪れる完璧な静寂を期待してはいけないよ。コクボルは雑然として、騒がしくて、偽りのない『命の躍動』のような競技だからね」と説明しています。馬上の選手たちは互いに肩をぶつけ合いながらひしめき合い、ウラク(Ulak)と呼ばれる山羊の死体(または山羊の皮)を奪い取って群れから抜け出そうと必死になります。ひとりの騎手が、ブーツが地面に触れそうなほど馬上から身を乗り出すのを見ると、落馬するのではないかと冷や冷やしますが、やがて何ごともなかったかのように体を起こします。まさに、馬と人間が一体となって駆け抜けていきます。その瞬間、観戦に訪れた旅行者たちはビデオ撮影をやめて、ただプレーに見入ってしまうのです。
コクボルのルールは非常にシンプルです。2つのチームがウラクを奪い合い、「タイカザン(Taikazan)」と呼ばれるゴールまで運び、得点を競います。一見無秩序に見えますが、実はこの競技には戦略が欠かせません。選手たちの筋力はもちろんのこと、タイミングや度胸、そしてチームワークも不可欠です。ひとりの騎手が壁のように相手を阻止している間に、別の選手がまるで水が流れるように群衆の間をすり抜け、3人目の選手はひしめき合う人だかりが開く一瞬の隙を待ち構えます。そして、群れから抜け出すと、彼は砂塵を巻き上げ、ゴールだけを見据えて一気に突き進むのです。
私はコクボルの試合にまつわるすべての情景が大好きです。試合開始前、場内には静かな緊張感が漂います。馬たちは足を踏み鳴らし、騎手たちは鞍を調節します。長老たちは、多くの冬を過ごしてきた年長者特有の落ち着いた様子で見守ります。場内にはお茶やパンを販売する人もいます。あちこちでジョークが飛び交います。この国の気候と同じく、キルギスのユーモアは鋭く瞬発的で、何の前触れもなくやって来るのが特徴です。
試合の後は、エンターテイメントを観たというよりも、キルギス人のルーツの一部に触れたような気持ちになるでしょう。この国は、広大な空の下を移動しながら暮らし、困難に耐え、喜びを感じてきた遊牧民の土地なのだと感じずにはいられません。コクボルは博物館に展示されているような過去の伝統ではなく、今も息づく、騒がしいけれど誇り高い伝統です。遥か地平線に山々が連なり、馬の蹄音が大地に響く、風の強いキルギスの草原に立てば、この国の人々がコクボルを何度も観たくなる理由がきっとお分かりいただけることでしょう。

特派員

  • ダニアール・バクチエフ
  • 職業公務員

はじめまして。ダニアールと申します。公務員です。キルギス共和国に住んでいます。趣味は本を読むことです。また、旅行やいろいろな食べ物を味わうことも好きです。よろしくお願いします。

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