• 2025.12.04
  • シドニーのエイジドケアで広がる日本文化 〜書道を通じた心の交流〜
この頃は、書道の仕事をしている事を積極的に伝えるようにしています。なぜなら、私の仕事に関心を寄せてくれる方が必ず周りにいることを身に染みて感じるからです。友人が働いているエイジドケア(老人ホーム)の施設ではアクティビティを日々開催しています。その中の1つとして、月に2回、書道のワークショップを取り入れて頂きました。
エイジドケアでの仕事にあたっては、細かなルールがあり、様々な証明書が必要になります。それ故、外部からの講師は多く採用しない中でのお声掛けでした。手続きに時間はかかりましたがとてもありがたい依頼です。
初回のワークショップでは、参加者の皆さんは日本や日本人にとても好意的で、かつて旅行で訪れた地域や思い出を楽しそうに語りかけてくれます。ワークショップには毎回15名ほどが参加します。基本は自由参加。気分がのったときにふらりと参加してくれる方も多く、和やかな雰囲気に包まれています。
書道の時間は、ただ文字を書くのではなく、日本語やその意味も一緒に学んでいただいています。今回のテーマは「春」。英語では“Spring”ですが、「春」という漢字一文字の中には、季節の移ろいや命の芽吹きといった情緒が込められています。その美しい意味をお伝えすると、皆さんは感心したように頷きながら、「春」「はる」「ハル」と、漢字・ひらがな・カタカナを丁寧に練習していました。
日本から持参した和紙や筆、墨の香りにも興味津々で、「これは何でできているの?」「どうやって作るの?」と質問が止まりません。筆置きや筆巻といった小さな道具にも関心が高く、私が筆の使い方を見せると、皆さんもすぐに真似をしてとても上手に再現します。その観察力と集中力には感心させられます。
書き終えた作品を手にした皆さんは、互いに見せ合いながら笑顔で「ありがとう」と声をかけてくださいます。その言葉を聞くたびに、私の方こそ感謝の気持ちでいっぱいになります。日本文化を通して人の心に触れ、笑顔を共有できるこの時間は、何ものにも代えがたい大切なひとときです。
施設の担当マネージャーであるエリザベスさんは、「毎日同じ顔ばかりではつまらないでしょう?」と笑いながら、わざと赤い縁の大きな眼鏡をかけて皆さんを笑顔にしているそうです。また、「この施設にはとても頭が良くて才能のある方が多いから、普通のワークショップでは満足してもらえないの」と話し、私の書道ワークショップ開催に尽力してくださいました。その温かいサポートにも心から感謝しています。
文化の違いを超えて、お互いを理解し、尊重し合える空間がここにはあります。書道を通じて生まれる交流は、まさに「心をつなぐアート」。次回は「花」や「風」をテーマに、日本の春の情景を文字で表現する予定です。
「また書きたい!」という参加者の声に励まされながら、次回の開催を今から楽しみにしています。



特派員

  • 藤田 博子
  • 職業書道家

日本の伝統文化である書道を海外に発信し、現地の方々との繋がり、様々な情報を発信していきたいと思います。

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