前回に続き、今度は実際彫刻のクリーニングから始めるとしましょう。
テストによって使用する液(薬品)を決め、その液を含ませた綿棒のようなもので丁寧にゆっくり表面を拭って行きます。この綿棒は、竹串の先に綿を絡ませたものです。自分で絡ませるので、広い表面を拭いたい場合は、多めに綿を取り、竹串に絡ませ、細かい部分をやりたい場合は、少ない量の綿を絡ませればいい訳です。汚れを拭っている部分の綿は汚れを含み、直ぐに黒くなるので、黒くなった竹串の先の綿を取って捨て、また新たに綿を竹串の先に巻きつけます。この工程をひたすら続けることになります。
彫刻の汚れを取り除いている最中に、破損している部分を見つけることがあります。その場合、綿棒でこすって更にダメージを追わせる前に元に戻しておく必要があります。
時には、欠けたり折れたりし、そのパーツが紛失している場合もあります。そういう場合、持ち主の希望によりそのパーツを復元し、あるべき箇所に付けて直す場合もありますが、基本的には歴史を残すという意味で、それは行わないケースがほとんどです。
今回の彫刻の修復の特徴として、釘の処理が必要なものがありました。色が塗られた表面積の各所に茶色い点がいくつか見られました。また、色をつける前に、彫刻された木材の上に石膏のようなものが塗られているのですが、その層が所々かけていたりします。状態の悪い彫刻では良く見られることなのですが、今回の場合は、錆びた釘が原因でした。昔は、ステンレスの釘がなかったこともあり、こうした金属の酸化は、仕方がないものでした。酸化した鉄が石膏の層や木材をもろくしてしまうのです。
酸化した釘を探してゆき、明らかに必要ないものは取り除きます。取り除くことのできなかったものや、木材をつなげている金属に関しては、ヤスリで錆を削り、酸化防止薬を塗って処理します。
それが済んだら、今度は、これらの穴を含め、他の石膏がはがれている部分を埋める作業にかかります。
決められた分量の水でニカワを溶かし、それに岩石の粉を混ぜ、クリーム状のペーストを作ります。それを筆で塗るように穴を埋めていきます。まず一層塗り、乾いたらまた次の層を塗り、何度か繰り返し、表面より盛り上がるまで層を重ねていきます。その部分を今度は先を尖らせた紙やすりで丁寧に擦り、高さを均一させます。
そしてやっと、顔料で岩石ペーストの上に顔料で色をつけていくプロセスです。丁寧に、周りに溶け込むように塗っていくのですが、また十数年後の修復の日に、修復箇所が分かるよう、またその時にその修復箇所の顔料が簡単に落とせるような素材を使うのが基本となります。または、オリジナルに使われている素材とは異なるものを使うことが大事なのです。次のクリーニングの際、修復で塗られた色素を取る際に利用する薬品が、オリジナルの色素も取ってしまっては、意味がないからなのです。
こうして、よみがえった彫刻に軽くニスを施し(しない場合もある)、彫刻がつけていた装飾品も綺麗に修復してあげ、一通りの作業は終えるのです。