栗の焼ける匂いと共に、時期が夏から秋へ移ったことを知らせてくれます。
聖マーティンの一般的な伝説は、こんな感じです。
雪が降りしきる中、帰路に向かう途中で騎士マーティンは、寒さに凍える乞食に気づき、自分の着ていたマントを半分に切り、与えてやる。
するとその夜、マーティンの半分に切ったマントを覆ったイエス・キリストが夢の中に現れ、彼に感謝の言葉を捧げる。雪の中で助けた乞食は、イエス・キリストだったと言う話。
ポルトガルバージョンは、少々違います。
嵐の中を家路に向かう騎士であるマルティーニョ。途中、施しを求める乞食に出会います。何も持ち合わせていなかった彼は、体を温めてくれていたマントを背中から下ろし、剣で半分に切り片側を乞食に与えます。するとどうでしょう。嵐がピタリと止んで、太陽が燦々と照りつけました。
・・・ポルトガルでは、まず雪が降らないので、伝説の中の「雪」が「嵐」に変わったのでしょう。そして、嵐が止んで暖かくなったと言う部分は、ポルトガルのこの時期、夏のように暖かい日が続くことに合わせて作られているのだと思います。
この心地の良い秋晴れの時期をポルトガルでは、「サン・マルティーニョの夏」と俗に言われています。
ポルトガルでは、サン・マルティーニョの日には栗を食べる習慣があります。
これは、「Magusto」と呼ばれ、大きな焚き木を作り、その上で栗を焼いて食べる、言わば栗祭りです。
栗といえば、日本では秋の象徴ですが、ポルトガルでも同じで、この時期にたくさんの栗が取れます。よってMagusto 栗祭りの起源は、栗の収穫に合わせたのは勿論ですが、元々は諸聖人の日(11月1日)に、家族の使者の霊が現れて食べられるように、始まったとも言われています。
栗の焼き方ですが、まず一つ一つに切り込みを入れ、底に無数の穴の空いた壺に塩と一緒に入れ、暖炉の上や炭の上に壷ごと置き、ローストするのが一般的な方法です。
そしてそれを「アグア・ぺ」と言う、その名もなんと「足の水」と言うお酒と一緒にいただきます。
この時期は、ちょうどワインの解禁デーになるのですが、アグア・ぺは、ワインづくりに絞ったぶどうの残りカスにスピリッツ系のお酒を加え、発行させたお酒なのです。アグア・ぺと言う名は、足で踏んで作ったことに由来しているのでしょう。 決して足の味がする訳ではありません。ですが、個人的には飲んだ後、鼻から抜ける味がどうも汚い靴下を連想させ、いまだに好きになれないのです。
栗と一緒に口に含めば絶妙な旨さなのかしら? 来年は、その組み合わせで再チャレンジしてみようと思っています。