毎年11月にリスボンで開催される Web Summit が、今年も無事に終わったところだ。
Web Summit は世界最大級のイノベーションイベントで、毎年多くのスタートアップ、投資家、大手企業、そして起業家が世界中から集まってくる。
会期中の目玉のひとつが「PITCH(スタートアップ・ピッチ・コンペティション)」。数千社規模の応募の中から選ばれた企業が、自分たちのアイデアや事業を世界に向けてアピールできる貴重な機会だ。もちろん、ここで優勝すればスタートアップにとって高い注目を集めることになる。実際、過去の優勝企業がそれをきっかけに資金調達や事業拡大を果たした例は少なくない。
そして今年、このPITCHで 2年連続してポルトガル企業が優勝した。
今年の優勝企業はGranter。企業の補助金申請をAIと専門家の知識で支援するプラットフォームを提供している。
正直に言えば、Web Summit はポルトガル政府の連携が強く、ポルトガル企業の存在感が非常に大きい。だからファイナリスト入りや優勝が続いているのも自然な流れだと、個人的には思っている。それでも確かに、ポルトガルは長いあいだ ITやイノベーション分野の育成に力を入れてきた国でもある。ヨーロッパの「革新の拠点」を目指して続けてきた取り組みが、ここにきて実際の成果として表れているのかもしれない。
それに、ポルトガルはスタートアップフレンドリーな国だ。国外からも多くのIT人材やベンチャー企業が集まってきている。スマホひとつあれば何でもできる国になってしまった、と改めて思う。
Web Summitは2009年にスタート。当初はアイルランド・ダブリンのホテルで開催される、比較的小規模なテック系カンファレンスであった。それが急速に規模を拡大し、「世界最大級のテクノロジーカンファレンス」と呼ばれるほどに成長した。
しかしダブリンでは会場の規模やインフラが追いつかず、2016年に開催地は正式にリスボンへ移転する。大規模会場が利用可能、交通の利便性、政府の積極的な支援、そして他の欧州国に比べて生活コストが安いことなどが決め手となった。
移転後は参加者が急増し、いまでは7万人規模の巨大イベントになっている。期間中のリスボンは、ホテルはもちろん、レストランやバーまで連日満員で、街全体が多国籍都市と化す。普段はどこかのんびりした小さな首都なのに、Web Summit の数日間だけは地面が少し沈むのではないだろうか、と毎年のように想像してしまう。
そんな Web Summit で、私の記憶に強く残っているのが 2017年に登場したヒューマノイドAI Sophia(ソフィア) だ。香港の Hanson Robotics が開発したAIで、この年の Web Summitに登場したことで一気に世界的な注目を集めた。
会場で行われた対談やデモンストレーションは瞬く間に世界中で拡散され、「AIがジョークを言った」「ヒューマノイドと人間は共存できるのか」といったテーマをめぐって議論が巻き起こったのを覚えている。<興味のある方は、YouTubeですぐに見つけられるので、ぜひ見てみてほしい。>
Sophia はその後、“未来のAIの象徴”として語られるほどの存在になり、最終的にはサウジアラビアで市民権まで得てしまった。
インタビューで「今後の夢は?」と聞かれたときの返答も忘れられない。
Sophia ははっきりとこう言った。
「子供を作ること。」
そのひと言に、なんとも言えない感情を覚えたのを今でも思い出す。
- 2025.12.24
- リスボンの11月をにぎわせる Web Summit
