およそ百年以上前、マドリードにポルトガル・スペイン・フランスの隣組が集合して
、一つの国際協定を結びました。それはそれぞれ自国の特産銘酒を、産地偽装してぼろ儲けする不埒な輩から守るためだったのです。世界三大酒精強化ワインと評される名酒の二つはポルトガル産のマデイラ・ワインとポート・ワインです。もう一つはスペインのシェリー酒。(イタリアはシシリア島産のマルサラ・ワインを加えて四大ワインとすることもありますがこちらはマデイラ・ワインをまねて作られたものなので今回はお引き取りいただきます。)フランスには言わずもがな、シャンパンやコニャックなど、世界に名だたる名酒があり、これらを生産している三ヶ国が集まり、似て非なる製品に自分たちのご当地ブランドを使ってくれるなという意思表示をしたのです。『虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関する1891年4月14日のマドリード協定』と仰々しく名付けられたお約束には日本も戦後1966年に加盟、その規則に従って矢印シャンペン・サイダーや赤〇ポートワインの名前が変更されました。産地の名称を使用せず滑り込みセーフは“コニャック”の代わりに“皇帝”をつかったキャッチ・フレーズ“下町のナポレオン”でしょうか。ところで、その時もう一つの協定も出来上がりました。こちらは産地ではなく独自の標章(商標)を保護するのが目的です。『標章の国際登録に関する1891年4月14日のマドリード協定』というものです。 現在は100ヶ国近くが加盟していて、一度ここに登録すれば加盟各国の保護を求めることが可能になります。日本には世界的に認知された高品質な製品やそれらを生み出すメーカーが多くありますので、その名前を保護するために登録するわけですが、まさか“寿司”とか”うどん“という名称を登録しようとは思いませんよね。昨年、バルセロナで日本人が経営している人気のうどん屋さんにある弁護士から突然警告文書が届きました。その内容は“UDON”という名称の使用をやめるように要求していたのです。この“UDON”はバルセロナのある会社が2003年にスペインで商標登録をしてあるので、店の名前だけでなく、ネットでもメディアでも使ってくれるなというご無体な話です。もし“UDON”を国際登録していたら事態は変わっていたでしょう。これからスペインで飲食業を始める方は事前に”BUTAMAN”や “DOTEYAKI”などを商標登録しておいたほうが末代まで禍根を残さないかもしれませんね。 それとも最近知名度が上がったイベリコ豚を、日本で“いべり子豚”として登録“IBERICOBUTA”という名称を独占しましょうか。